軸足を精神科医に置きつつ、世の中の偏りに物申すかのように寄稿や講演もあまた行ってきた。その香山さんは現在、こんなことを思っている。
「やってみて合わなかったらやめる」ぐらいのスタンス
「高齢者や外国人、女性など社会的弱者といわれている人たちに社会が、自己責任だなんだって冷たくなっていくのに対して、『それは違うでしょ』と言い続けてきましたが、どこかで『言うだけじゃなぁ』という思いがずっとあって。今、日本には医師が偏在していて、東京や大阪は多いのに過疎地では無医村も増えているんです。自分の中にちょっとでも医師として使えるリソースがあるのなら、置き去りにされた場所にそれを直接届けたいなと」
今回の大転換の経緯は、香山さんの著書『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』に詳しく書かれている。本を出した後、こんなうれしいことがあった。
「先日、母校を訪ねたら、『先生の本を読んだという産婦人科医の先生が、私も結構な年だけど前からへき地医療に興味があったので、やってみようかと思うんです。つきましてはここで勉強させてくださいって来ましたよ』って。年だからとか関係なくやってみようと思ってもらえたのがうれしくて。
とはいえ、今まで『ここに一生を捧げます』みたいに前のめりだったのに、つらくなって折れてしまう人をたくさん見てきました。私自身、数年後は、海外で医療貢献しているかもしれないし、離島に行ってるかもしれないし、どうなっているかはわからない。やりたいことがあるなら思い立ったが吉日。やってみて、合わなかったらやめるぐらいのスタンスでいいんじゃないでしょうか」
取材・文/山脇麻生