実は、閉経に伴って膣の環境が悪化することも膀胱炎の原因になるのだという。
「若いうちは膣周りの環境をきれいにする自浄作用が働き、たとえ便が近くに付着しても尿道の中に菌が入りにくい機能が保たれています。それが、更年期以降は免疫の代謝が低下して自浄作用が働きにくくなることで、腸の菌が尿道にすみつきやすくなり、結果的に膀胱炎にもなりやすくなるのです」
洗いすぎは本来の免疫機構やバリア機能を損なう原因に
治りにくいため、慢性的な膀胱炎を発症しやすい。
「慢性膀胱炎は急性膀胱炎ほどの強い症状は出ないものの、排尿の最後に鈍い尿道痛があったり、常に残尿感がある、おしっこのニオイがキツいといった症状があります。本来、尿や尿道は、ほぼ無菌なのですが、中には自覚症状もないまま、膀胱に菌がすみついている環境になっている人もいます」
膀胱炎自体は命を奪う病気ではないが、膀胱炎を起こした後に、膀胱から腎臓に細菌感染が広がって腎盂腎炎を発症することがある。
「膀胱炎からたびたび腎盂腎炎になると腎臓の機能が低下します。高齢者であれば命にかかわる病気になりえますし、若い人でも入院治療が必要な場合もあるため、注意が必要です」
膀胱炎は感染症なので、風邪をひきやすいとか、喉が痛くなりやすいのと同じように、睡眠不足や疲れがたまって免疫が低下したときにかかりやすくなる。ところが、膀胱炎を繰り返す人の中には、汚いから膀胱炎になる、と間違った認識を持っている人もいるという。
「不潔恐怖症のような状態です。排泄したときに自分がすごく汚いと思えて、デリケートゾーンの粘膜のぬめりがなくなるまで拭きすぎたり、温水を1分以上当てて洗浄し続けたりして、本来の自浄作用やバリア機能を破綻させてしまうのです」
閉経後、女性ホルモンが減少すると膣周りの菌の種類が変わって、アソコもにおいやすくなるのだとか。
「汚いからだと思ってみなさん洗いすぎますが、そうすることでいい菌が減ってさらにニオイがキツくなります。さらに粘膜に細かい傷ができてそれを治そうと体液が出る、それがばい菌と合わさることでも悪臭が出る、さらに洗う……と悪循環になります」
洗えば洗うほど粘膜や皮膚も弱くなり、普段から刺激を感じやすくなるうえ、ばい菌が入ったときにも治す力が弱っているため、より膀胱炎を起こしやすくなる。
気になる場合は、婦人科での治療を視野に入れても。
「膣の中の環境をよくするホルモンを膣の中に入れる薬もあります。乳がんや子宮体がんなど基礎疾患があると受けられませんが、人生100年時代なので、閉経後はある程度の専門的な膣のケアや女性ホルモンの補充を検討してもいいかもしれませんね」
ホームケアとしては、保湿が有効だという。
「アソコのケアでは、意識の8割を皮膚や粘膜の保護に向けてください。鏡で陰部をチェックして、赤みが強ければ、ワセリンなど無添加のものを排泄後やお風呂上がりにこまめに塗りましょう。赤みがなければお好みのフェムケアグッズを試してみるといいですよ」
残りの2割で洗い方を意識。
「入浴時に湯船に浸かる習慣がある人なら、わざわざ陰部を洗わなくていいんです。シャワー浴の人も週に1~2回、泡のフォームをほわほわっとのせて洗い流すだけでOK。
日本人はきれい好きな人が多いですが、身体に関しては、洗いすぎは本来の免疫機構やバリア機能を損なう原因になります。診察でも、汚すぎてダメと注意することはほとんどなくて、洗いすぎだから気をつけてと指導する機会のほうが多いくらいです」
排尿後に陰部を拭くときもやはりゴシゴシはNG。優しくゆっくりポンポンと押し当てて水分をオフして。
「女性は、年齢とともに陰部周りの形や膣の中の環境など、下半身にも大きな変化が起こります。当たり前だと思っていた常識や習慣に固執しないで、自分の年齢に合わせてアップデートしていくことが大切です」
こんな人は要注意
・排便後は、お尻を後ろから前にゴシゴシ拭く
・温水洗浄機能を使用するのが習慣になっている
・お腹を下したり、軟便ぎみなことが多い
・清潔にしたいから、陰部はお風呂でしっかり洗う
・排尿後は、水分をゴシゴシと拭き取る
取材・文/荒木睦美
二宮典子先生 女性泌尿器科医。漢方医。「医療法人 心鹿会」理事長。女性のための、病院では聞きにくい情報を発信するYouTubeチャンネル「ココシカ診療所」も人気で、現在、登録者数約5万人。著書に『女医が教える 潤うからだづくり』(主婦の友社)がある。