ある日の夕食後、ソファに寝そべりくつろいでテレビを見ていたA子さん(50代)は、突然、右肩に強い痛みを感じた。
ここ1年近く煩わされてきた肩の痛みが、何かの拍子で悪化していつもより強く感じるのかなと思い、患部を冷やさないように温かくして安静に過ごしたという。しかし、痛みはどんどん強さを増していき、腕を上げることもままならなくなる。
実は中年以降の女性に多いありふれた病気
「息を止めてしまうほどの激痛で、まさにのたうち回るといった感じでした。肩のあたりでこんな痛みに襲われたことは今までないので本当に驚いてしまって」
布団に入って休むもささいな動きで激痛が走るため、寝返りを打つことすら容易ではなかったという。
経験したことのないような痛みに耐えながら朝になるのを待って、最寄りの整形外科を受診。エックス線検査の結果、医師から告げられたのは「肩に“石”ができていますね」という、思いもよらないものだった。
A子さんを襲ったこの病気、正確には「石灰沈着性腱板(けんばん)炎」という。初めて聞くという人も多いかもしれない。A子さんはその病名に思わず身構えたという。
いったいどんな病気なのか、肩関節外科専門の牧原武史先生に詳しい話を伺った。
「肩の筋肉が上腕の骨にくっつくところを“腱板”といいます。この腱板の中や表面に石灰がたまり、それが強い炎症を起こして激烈な痛みを起こす病気です。
実は石灰がたまること自体はまれなことではなく、肩に痛みがない人を調査しても3~10%の人に石灰が認められています。石灰があっても必ずしも痛みが出るとは限らないんです」
身体の中に石の塊ができているかもしれないとは驚きだ。石灰がたまりやすい体質や原因はあるのだろうか。
「石灰の正体は、骨の主成分のリン酸カルシウムといって、血液中のカルシウムとリン酸が結びついたものですが、これがなぜ腱板にたまるのかはわかっていません。
ネット上では、コーヒーやタンパク質のとりすぎなどがよくないといった情報も見かけますが、裏付けとなるデータや報告を見つけることはできませんでした。食品をちょっと多くとるくらいではカルシウムやリン酸の血中濃度は変動しないため、食品が原因になることは考えにくいです」
注意したいのは発症が多い年代。
「40代から60代の方が多く、中でも女性がやや多いといわれています。中高年で増えるのは、加齢によって腱板の変性が起きて血流が乏しくなることが原因のひとつに挙げられます。ただ、70代以降では発症が少ないことを考えるとそれだけが原因ではないはずです」
いまだにはっきりとした原因は解明されていないが、糖尿病や甲状腺の疾患、女性ホルモン(エストロゲンの代謝)の変化、腎結石のような内分泌系疾患との関連が指摘されている。