人工肛門を避けられない患者に効果を発揮
「術前のTNT治療で、放射線治療を5週間、その後、化学治療を3〜4か月行います。その間、長期にわたって副作用に苦しめられることになるわけです。また、すべての患者さんに適しているというわけでもありません。副作用に苦しめられるという点から再発率が低い早期の患者さんには適しませんし、肛門から8〜15センチの距離があり、再発の可能性も高くはない人にこれをすると、排便機能が低下します。なので患者さんによっては、副作用のデメリットが大きくなる可能性があります」
人工肛門を避けられない可能性が高い患者さんにこそ、TNT治療はその真価を発揮するという。
このTNT治療、残念ながら積極的経過観察とはならなかった患者さんに対しても、手術後の再発予防に有益だ。
「集学的治療により、再発率が下がることが期待されています。ちなみに日本では、直腸がんに対してはまずは手術。術後の結果を見て抗がん剤治療を行うかどうかを決めるのが標準治療の流れですが、手術前にTNT治療を行えば、肝臓や肺などへの転移を抑えることができます」
ちなみにがん研有明病院では、2022年までに1000人を超える患者さんに集学的治療を、400人にTNT治療を行った実績があると秋吉先生。「切らない治療」は、多くのがん患者に大きな福音となっているようだ。
有賀智之先生●東京科学大学乳腺外科教授。がん・感染症センター都立駒込病院外科(乳腺)/遺伝子診療科部長を務め、乳がん治療に関する専門知識を持つ。乳がん治療、薬物療法、遺伝性乳がん診断などの手術、治療を行う。
秋吉高志先生●がん研有明病院大腸外科部長・直腸がん集学的治療センター長(兼務)。腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術、直腸がんに対する集学的治療や肛門温存治療を中心に質の高い診察を患者に提供する。
取材・文/千羽ひとみ