子宮と卵巣摘出で突然訪れた閉経
結局、子宮に筋腫が8個見つかり、子宮と卵巣の摘出手術を受けることに。
「卵巣がんのリスクをなくすため、子宮だけでなく卵巣も摘出しました。エストロゲンの働きを長く享受するため、卵巣はできる限り温存するのが主流なんですが……」
こうして天野先生は50歳で閉経を迎えた。術後は出血もなくなり、貧血も治って身体は楽になった。
「ところが術後半年たったころ、足の裏の皮膚が象のように硬くなって、顔の皮膚が薄くたるみ始めました。閉経でエストロゲンの分泌が止まり、更年期の症状が始まったんです」
エストロゲンを補う薬を飲み治まったものの、それから3年後、再びさまざまな症状に悩まされるようになる。
「発汗とのぼせ、ほてりが本当につらくて。発汗は特にひどく、医師として患者さんを診察しているときもタオルが手放せないほど。5年たったころ、足の裏を軽石でこすったら身体中に痺れが走り、以来1年間、原因不明の痺れにも悩まされました」
さらに下半身の冷えと関節の痛み、脳がうまく働かず集中力が低下、倦怠(けんたい)感、疲労感にも襲われた。
「その中でも一番つらかったのは頭がぼんやりして医学論文が書けなかったこと。結局、59歳まで6年間にわたって更年期障害を経験。これまで多くの女性患者さんを診てきましたが、私ほど重い更年期障害を体験した人には出会ったことがないです」
女性ならではの壮絶な苦しみを味わった経験を経て、天野先生は女性外来の創設を目指す。
「ホルモンに左右される女性の身体は特殊で、それに適した医療が必要だと痛感したんです。更年期障害が終わるころには頭も冴(さ)え、女性外来の実現に向けて本格的に活動を開始。60代は記憶力の低下などの老化現象は感じつつも、50代と比べて精神的にも身体的にもいい状態でした」