元乃木坂46・生田絵梨花の回で“ダメ出し”
テストが終わると、窪田さんはブースから出てきて、「この言い方だとわかりにくい」など、“最初の視聴者”として感じたことを伝える。プロデューサー、ディレクター、構成作家などスタッフは、窪田さんの率直な感想をドキドキしながら待つという。
逆に、スタッフのほうから窪田さんに注文を出すこともあるが、窪田さんは笑顔で聞いている。
「他の現場では僕に遠慮があるのか、こうしてください、ああしてくださいと言われることが少なくなっているので、ダメ出しをもらえると、うれしいんですよ」
例えば、今年10月に放送した元乃木坂46の生田絵梨花が登場した回。「歩む道にゴールはない」というエンディングの言葉を最初、窪田さんは力強く言い切った。だが、毎日放送プロデューサーの沖倫太朗さん(43)は、窪田さんにお願いをした。
「もうちょっと、やさしく読んでみてくれますか」
その理由を沖さんはこう語る。
「番組として生田さんの背中を押すというか、応援している感じが欲しかったんです。窪田さんは読み方のパターンをたくさん持っているので、僕が詳しく説明しなくてもわかってくれる。このときもすぐにニュアンスを変えて読んでくれました。
以前、窪田さんにどうやってニュアンスを変えているのかと聞いたら、距離感だと。空に向かってか、目の前の相手か、自分自身に向かってか。どこに向かって話すかでトーンが変わると言われて、わかるような、わからないような(笑)。でも、それがナレーションなのか、すごいなあと」
『情熱大陸』の開始当初から何度も一緒に仕事をしている構成作家の田代裕さん(68)は、窪田さんのナレーションを「職人技」だと称賛する。
「窪田さんは音に敏感ですね。ドキュメンタリーだからクラクションの音とか、その場の環境音も視聴者には情報になります。大事な要素なんですが、例えば、僕が指定したところでナレーションを読み始めるとクラクションの音と重なってしまうと思うと、窪田さんは実にうまくすり抜けて読みのタイミングをずらしてくれるんですよ。環境音を生かして臨場感を残す。その柔軟な対応力はすごいなと思います」
田代さんによると、わかりにくい一連のセリフに対して、「こうしようか、ああしようか」と20分も議論して直したこともあるそうだ。
窪田さんを含めて、みんなで意見を出し合い、ナレーションを修正した後、本番の収録に臨む。どんなに時間がかかっても、窪田さんは面倒くさがるどころか、むしろ喜々としている。
「僕はもう、仕事バカっていうか、ナレーションが好きなんです。何の抵抗もなくスーッと内容が入っていくようなナレーションができたら最高なんですが、ここはリズム感が悪いなとか、少しでも違和感のあるところは、何度も直します。自信がないから、逆に、とことん突き詰めちゃうんですよ。今日も何回、『もう1回お願いします』と言ったか(笑)。
それだけやっても完璧な仕事って、ないですもん。オンエアされた映像は恥ずかしいからあまり見たくないけど(笑)、仕方なく見ると反省するわけですよ。あそこはちょっとこだわりすぎたなとか、もっとサラッとやればよかったなとかね」