「明日何をするか」

益田 それは大切ですね。一方で、メンタルケアやメンタルトレーニングでは、自分のことを振り返るといったプロセスが効果的なのですが、どこを起点としていいか、なかなか難しいとされています。

 それについて、僕はおじいちゃん、おばあちゃんの生い立ちから書き出してくださいと伝えている。アメリカの精神療法は“自分”に軸が置かれているのですが、日本では、心の病は家族とセットになっているところがある。客観的に自分を見つめるために、おじいちゃん、おばあちゃんくらいからさかのぼるのがいいと思うんですね。

山下 それはたしかに客観的な情報を集めやすそうです。僕の場合、よくすすめているのは、「明日何をするか」を考えることです。過去は変えられないし、未来はどうなるかわからない。直近の明日をいい一日にするために行動しよう、と。それを理想の1か月や1年……というように続けていくのがよい継続になるのだと考えています。

益田 僕が考える精神科の治療は三本柱です。一つ目が薬物療法、二つ目がカウンセリングや精神療法、三つ目が福祉導入や環境調整。中でも、カウンセリングは患者さん自身の成長の場になる。

 単にわれわれが対話をして癒す場ではなく、患者さんが学習するサポートを行う場です。いちばん効果的なのは、患者さん自身が治療者側に回ること。ケアサポーターなどで誰かを教えてあげると学習効果が高いし、成長できます。

山下 人は、「自分で気がついたこと」に大きな価値を見いだすという習性を持っていますからね。

益田 そうですね。ですから、学んでいくという環境をいかにつくっていくかもとても大事です。それこそ山下先生の今回の著書は、患者さんの家族にとっても大きなヒントになると思いますよ。