参考にしたのは第三者たちの声
今作は、いじめの詳細なシーンも描かれているが、実際の事件や体験談がモデルになっているわけではない。しろやぎさんが作品の参考にしたのは、事件には無関係な第三者たちの“声”だ。
「いじめに限らず、つらい事件に対して、SNS上で好き勝手な意見を言う人が必ずいます。でもその人が当事者になったとき、同じことを自分や子どもにあてはめるのかどうか。
今回の作品では、当事者の子どもだけではなく、その親や、周りの保護者、そして無関係の人々も多く登場します。彼らの心情をリアルに描くために、そうした第三者の声を知る必要がありました」
作中では、加害者と被害者、それぞれの親たちの葛藤も描かれる。加害者とされる少年の両親は、夫婦間のコミュニケーションがうまくいっていなかった。
子どもがいじめをするようになったのは、そうした両親の不仲も原因と思わせるようなシーンがちりばめられている。しかし、しろやぎさんいわく、「これという原因を決めているわけではない」と話す。
「問題が起きると、人は何が原因かを探ろうとしますが、それは一つではないと思うんです。両親の不仲も、もしかしたら関係があるかもしれないし、そうでないかもしれない。におわせるような書き方も、意識して取り入れました」
物語のラストは、読む人によって、いかようにも受け取れる結末だ。「皮肉を込めた終わり方にしています」としろやぎさんは言う。