あきらめられないなら退院して“在宅医療”に

 また、混合診療のルール以前に、話をまともに聞いてもらえない場合もあるという。

「『患者申出療養』や『評価療養』といった制度を設けて、国も自由診療を徐々に認めてきているものの、特に大きな病院は治療の効果判断が鈍るため標準治療以外を一切認めない傾向が強いです。そのため大病院医師ほど標準治療を“神聖視”して、それ以外の医療をすべて“インチキ”だと考える癖があるので、漢方薬をがん治療として試したいという相談をまともに取り合ってもらえないことが多いと思います」

 病院に入院しているとできない自由診療。それでも実践したい場合は、在宅医療や小さな専門クリニックへの通院に切り替えればいいと中村先生は言う。

「近年、がん患者に特化した訪問診療にも診療報酬がつくようになり、専門的な知識のある医師や看護師が自宅にきてくれるようになったので、基本的には大病院の緩和ケア科に入院していなくても心配いりません。訪問診療のクリニックは、病院とも連携しているので、いざというときには入院などのバックアップもしてくれます。

 また、標準治療が終わったとしても何かしらの治療を続けたいから少量の抗がん剤を投与してほしい、といった場合には、こちらも近年増えつつあるがん専門医が常駐している小規模なクリニックに通院して行うことも可能です。

 繰り返しになりますが、標準治療があるならその治療を最優先に受けるべきです。ですが、標準治療がなくなっても、まだ治療を続けたい、治したいと思っているなら退院すべきです。または通院している場合は在宅医療にしたいと主治医に伝えて切り替えるべきです。比較的大きな病院には『地域医療連携相談室』といった相談窓口があるので、まずはそこで希望を伝えてみてください。そこの相談員ならきっと相談にのってくれると思います」

「地域医療連携相談室」は在宅療養や住んでいる地域への転院に向けて支援を行っている相談窓口で、病院によっては「地域連携室」や「医療連携相談室」、「地域サポートセンター」や「医療連携センター」といった名称になっている場合もあるという。

 大病院医師が言うのだから……とあきらめないといけないわけではないのだ。入院していると自由に治療法を選べないという“保険制度上の決まりごと”が壁になっているのなら、上記の相談室を頼りにしてみてはどうだろう。

中村健二先生●医学博士。慶応義塾大学医学部、米国イエール大学医学部大学院で公衆衛生学修士、慶応義塾大学で医学博士を取得。25年間、厚生労働省技官(キャリア官僚)として臨床、研究、法制度の各面からがん治療にかかわる。

中村健二先生
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