そして、地元の県内で開催される障害者のファッションショーの出演を依頼されたのが14歳。そこで、ウォーキング講師の方と出会い、以後、月2回レッスンに通うことになる。ただ、ダウン症の菜桜さんにとっては、モデルのウォーキングやポージングは困難な動作。
ウォーキングの練習は困難を極めた
「筋力がないので、どうしても猫背になってしまうんです。それでも少しずつよくなっていき、まっすぐに歩けるまで5年かかりました」
時には、由美さんが「もうやめよう」と言うこともあったが、本人が泣きながらも「やる」と言い、家でもウォーキング練習を続けてきた。ひたむきに励んだ自主練が実を結び、各地ショーへの出演や雑誌、テレビなどでも紹介されることが増え、念願のパリコレにまでたどり着いた。
「たくさんの人たちの縁に支えられたパリコレでした。出演が決まったものの、菜桜のサイズの衣装がなく、急きょ衣装を探すことに。そこで紹介されたのが、成人式の個性的な衣装で知られる、北九州市の貸衣装店『みやび』の店主、池田雅さん。初対面で衣装を無償で提供してくださることになり着付けのためにパリにも同行してくださることに。また、パリへの渡航費、宿泊費などは、クラウドファンディングで300人以上の方に支援していただきました。本当に感謝しています」
菜桜さんが着たのは、和の要素を取り入れた華やかなドレス。
「雅さんが、普段の靴でも歩きやすいように工夫してくれたこともあり、堂々と笑顔で歩くことができました」
しかし、メディアでの露出が増えれば“アンチ”の存在も目につくようになっていく。スケジュール管理やSNSの運用など、マネージャー業務は由美さんがひとりで担っているが、SNSには時に心ないコメントが書き込まれる。多いのは「ダウン症モデル」というネーミングについての意見や“モデルなのに歩けていない”“親のエゴ、見世物にしている”など。
「インスタはあえて“キラキラ”した部分を見せていますが、何度も手術を繰り返したり、レッスンで泣いたりと、見える部分だけじゃない。それゆえ、娘にはネットの書き込みを見せないようにしています。『ダウン症モデル』というネーミングも、ダウン症であるのは事実ですし、モデルを続けるのも本人の希望。嫌だと言えばすぐにやめてもいいと思っているんですけれどね」と由美さんは困惑する。