目次
Page 1
ー 相次ぐ病気と事故で両親共に在宅介護に ー つい口から出た父への暴言に後悔
Page 2
ー 転機になったのはケアマネのひと言
Page 3
ー “手抜き”なしでは介護は続かない

 漫才コンビ「春やすこ・けいこ」として人気を博した、春やすこさん。結婚、出産後は2児の子育てにいそしむ一方で、病気がちな両親と2005年から同居し、フォローを続けていた。本格的な在宅介護の始まりは15年前、父親が寝たきりになってからだ。

相次ぐ病気と事故で両親共に在宅介護に

「父は63歳のときに胃がんで胃を全摘出して以来、脳出血、腹部大動脈瘤、急性心筋梗塞、脳梗塞を次々発症したという“病気のかたまり”のような人。脳梗塞を起こした後は右半身が不自由になりました。さらに、2010年には階段から落ちて頭を打ち、身体のバランスがとれなくなって、『要介護5』の寝たきりになってしまったんです」(やすこさん、以下同)

 一方、母親は肺気腫の持病があったため、酸素吸入器が必要な状態。肝臓も悪く、入退院を繰り返していた。それでも当初は、やすこさんと父親の介護を分担できていたが、2012年、自転車で転倒し、大腿骨を骨折。さらに腎疾患も悪化して人工透析が必要になり、介護が必要な身になってしまう。

「母にも前々から、『自転車はもうやめとき』と言っていたのに、案の定でした……」

 かくして両親の介護は、娘であるやすこさんの肩にかかることに。いっそ「施設に入ってくれたら」と、考えたこともある。

「でも、両親が共に施設に入るには、年金だけでは費用的に難しい。ふたりとも家がいいと言いますし、自宅で介護をしようと決めたんです」

つい口から出た父への暴言に後悔

友人たちとの旅行を楽しむ春やすこさん(写真/本人提供)
友人たちとの旅行を楽しむ春やすこさん(写真/本人提供)

 やすこさんの介護の1日は、朝の父親のおむつ替えから始まる。朝昼晩の食事を両親の部屋に運ぶほか、母親の通院にも度々付き添わなくてはいけない。疲労は否応なくたまっていった。

「赤ちゃんのおむつ替えと違って、大人はとにかく、おしっこの量がすごい! 父親の場合は一晩もたずに紙おむつからもれてしまうので、最初は、夜中の3時に起きて取り替えていました。だんだん、もれないように紙おむつをあてるコツがわかってきて、私も朝まで眠れるようになりましたが、睡眠不足はいかに心身を消耗させるか実感しました」

 母親はやがて自宅での入浴も困難に。やすこさんは母親に、入浴サービスがあるデイサービスに通うようすすめるが、当人は「あんなところ、年寄りの行くところや!」と行きたがらない。

「ようやく説き伏せて、デイサービスの契約をしたんですけど、母は勝手に『体調が悪いから休みます』とデイサービス先に電話して、サボってしまうんです。髪を洗ってないから頭が臭くて、離れていても母がいることがわかるほどでした(笑)」

 父親はもともと頑固な性格だったが、孫たちが生まれ、介護されるころにはすっかり、性格が「まるうなった」とか。何かとやすこさんに「ありがとう」や、「おむつ替えはお母さんより上手やな」などと、声をかけてくれた。それでも、やすこさんもつい、声を荒らげてしまったことがある。 

「父は便秘がちで、動かせる左手で、お尻から便をほじり出そうとするんですよ。それで汚れた手を壁や布団で拭くものだから、たまりませんよ。何度やめるように言ってもきかないものだから、思わず『そんなんするんやったら、さっさと死にいや!』と言ってしまったんです」

 両親はずっと、やすこさんが「やりたいようにさせてくれた」という。芸能界入りの際も反対せず、温かく見守ってくれた。

「そんな親子関係だから、父も私が暴言を吐いても、私が本気で父に『死ね』と言っているとは思わなかったでしょう。でも、介護最優先の生活では外出もままならない。当時は友人と食事をするにしても、何かあったら、すぐに帰宅できるように、近所に来てもらっていました。『私がちゃんとやらなきゃ』と思うあまり、ストレスがたまっていたんですね」