さらに、日本は「眠りたい時間」と「実際の睡眠時間の差」も諸外国に比べて大きいという特徴があります。東京、ニューヨーク、上海、ストックホルムの5都市で調査したところ、東京が断トツで「実際の睡眠時間」が「理想的な睡眠時間」を大きく下回っていることがわかりました。

 つまり、日本人の多くが「寝たいのに眠れていない」状況にあるといえるのです。

「眠りの借金」が厄介なのは、借りていなくてもどんどん溜まっていくところにあります。

 おカネの借金であれば、「いくら借りたのか」「いつまでに返さないといけないのか」「返せないとどうなるのか」が目に見えてわかる分、「何とかしなければ」と多少なりとも焦り、それが行動を起こさせる動機にもなるでしょう。

 しかし、「睡眠負債」の場合、借りている意識はなく、さらにダメージも徐々にあなたに迫ってくるため、実感をなかなか得るのが困難です。だからといって、放っておくと危険です。

週末の寝だめは効果アリ?

 適切な睡眠時間は人それぞれなのですが、私は経験上「6時間」は最低でも確保していただきたいと思っています。

 とはいえ、平日の睡眠時間を増やすのは至難の業でしょう。そこで、「週末に寝だめしてカバーしよう」という声をよく聞くのですが、土日少し多めに寝たくらいで「睡眠負債」はどれくらい返せるのでしょうか?

 これに関して興味深い実験があります。それは、「どれだけ眠れば寝不足は解消できるのか」を検証するために、健康な10人を14時間、毎日ベッドに入れ続けた調査です。

 実験前の彼らの平均睡眠時間は7.5時間でした。1日目は全員13時間、2日目も13時間近く眠っていたのですが、その後は徐々に睡眠時間が減っていき、3週間後には平均8.2時間に固定されました。

 この8.2時間が、被験者10人の「生理的に必要な睡眠時間」になるわけですが、この実験の目的は「理想的な睡眠時間」を知ることではありません。

 8.2時間が理想的な睡眠時間だとすれば、平均睡眠時間が7.5時間だった彼らは長い間、「毎日40分の睡眠負債」を抱えていたということになります。

 それが、正常な8.2時間に回復するまで3週間もかかった――つまり、40分の睡眠負債を返済するためには、「毎日14時間ベッドに入り続ける」ということを3週間連続で続けなければいけないわけです。

 これはあまりに非現実的。なので、週末の寝だめで日頃の睡眠負債をカバーするのは難しいといえるのです。