鉄分をとりすぎる人は肝臓がんのリスクが上昇する。
がんリスクに「鉄分のとりすぎ」
これは、国立がん研究センターが一般住民を対象にした調査の結果を今年の9月に報告した研究結果だ。※国立がん研究センター 多目的コホート研究「Cancer Prevention Reserch」より
鉄不足を補おうと、病院で処方された鉄剤を服用したり、市販の鉄のサプリメントを利用することで鉄の過剰状態に直結するのだろうか。また、身体に必要な栄養素のひとつである鉄が、なぜ病気のリスクを高めてしまうのだろうか。
アクアメディカルクリニック院長の寺田武史先生は、体内での鉄の働きについて次のように解説する。
「鉄は身体の健康維持に必要な必須微量元素のひとつで、主に3つの働きがあります。
1つ目はヘモグロビンの一部となって酸素を運ぶ働きです。
2つ目は、ミオグロビンという物質に変化して筋肉中に存在し、酸素が不足した場合に備えて酸素を蓄えるというもの。
3つ目はシトクロムという酵素の一部となってステロイドホルモンや男性ホルモン、女性ホルモン、脂肪を分解する胆汁酸を作ったり、肝臓での解毒作用などに関わる働きです」(寺田先生、以下同)
鉄が不足すると身体にはさまざまな不調が現れる。
「身体が酸欠状態になりますから、貧血や立ちくらみ、頭痛、だるさといった症状が現れます。脳に十分な酸素が行きわたらないことで思考能力や記憶能力などの低下がみられることもあります。また、身体に必要なエネルギーを作れなくなるため運動能力が低下し、嚥下障害などを引き起こす場合もあります。
鉄は身体のさまざまな部分で必要とされるので、常に一定量を体内に貯蔵しておきたい成分です」
飲んではいけないキレート鉄
鉄には、非ヘム鉄、ヘム鉄、キレート鉄の3種類がある。医療機関で鉄剤として処方されるのは非ヘム鉄だ。
「非ヘム鉄は活性酸素を発生させるため、服用すると胃痛や吐き気などを訴える方もいます。そのため、非ヘム鉄の特性を把握している医師は抗酸化作用のあるビタミンCも一緒に処方します。ヘム鉄は血液中に含まれるヘモグロビンと同じ形をしたタンパク質に包まれた鉄で、市販のサプリメントにも多く使用されています」
非ヘム鉄とヘム鉄は、処方薬やサプリメントでとっても過剰摂取は極めて起きにくい。なぜかというと、非ヘム鉄は数%、ヘム鉄は10~20%と吸収率が低いからだ。
「しかし、もうひとつのキレート鉄は腸での吸収経路が別で、粘膜を通して腸からどんどん吸収されます。その結果、鉄の過剰摂取が起こります。
キレート鉄のサプリメントも多く売られているため、サプリメントによる鉄の過剰摂取が原因で体調不良を訴えて私のクリニックに来院される患者さんは珍しくありません。特に海外製のサプリメントにはキレート鉄のものも多いので、買う際に鉄の種類をしっかり確認することが肝心です」
寺田先生が診察した患者の中には、体内の貯蔵鉄の状態を反映するフェリチン値(女性の理想は50〜100ng/mL)が500ng/mLを超える人がザラにいるという。
「腸であふれた鉄は腸粘膜にこびりついて腸の粘膜細胞の働きを妨げます。さらに肝臓や膵臓、心臓、脳下垂体などに沈着するとそれらの臓器が十分に機能できなくなり、肝臓がんなどの病気のリスクが高まります。
鉄の過剰摂取の原因となるキレート鉄は、命に関わるような緊急性がない限りとらないほうがいい。鉄不足は非ヘム鉄またはヘム鉄の摂取で補いましょう」