多くの犠牲を払い、身を粉にして両親や義父母などを看続けても、貢献度に見合った財産分与が行われることはまれ。介護を手伝わなかったきょうだい・親戚とモメにモメた結果、介護者が涙をのむケースが多いという。なぜか? どうしたらトラブルを防げるのだろうか?
税理士で海老原税理士事務所の海老原玲子代表は呼びかける。
「家裁への相続関係の相談件数は、平成24年までの10年間で約1.9倍に増えており、遺産分割に関する事件の件数は、10年間で約1.4倍になっています。なかでも、分割が難しい不動産についてモメることがいちばん多いです」
モメごとの根底にある原因のひとつが、“介護損”だ。自身も義父母の介護経験がある海老原代表が続ける。
「在宅介護で看ている人は、昼夜問わず24時間拘束されます。客観的に見るよりもずっと、心身の負担が大きいですから、“自分はこれだけ介護をしたのだから、していない人たちよりももらえるだろう”と考えるのは普通のことです。しかし民法では兄弟姉妹の分け前は基本的に平等。介護者が確実に多くもらえるような法律は、今のところありません」
介護が寄与(貢献)分として認められるには、無報酬かそれに近い状態で療養介護を行うなど、お金で計算できる相当な働きがないと難しいという。
「日常の世話や入浴、通院などを手伝った程度では該当しません。介護の自己負担分を肩代わりしたとか、ヘルパーを雇うべき仕事をすべて行ったため出費を免れたなど、お金に換算できるものでないと厳しいです。精神的負担は、残念ながら加味されません」
寄与分が算定されたとしても、よくて1日4000~6000円程度。介護者から見れば納得できる額にはならない。
介護・福祉系法律事務所『おかげさま』代表の外岡潤弁護士は、明治時代から3代続く商人の一族、宮本家(仮名。以下すべて名前も仮名)で勃発した泥沼劇を教訓として語る。
「大黒柱の宮本太平が老衰で亡くなりました。子どもは4人。同居する長男の妻を養子に迎えていました。父の介護は長男夫婦がしていました。次男や三男(故人)は医者になり離れて暮らし、盆暮れも顔を見せません。あとは長女がいます。
初めのうちは、長男夫妻をねぎらっていた弟妹が、遺産分割が進むにつれ、長男夫妻の働きを否定してきました」
太平の遺産の大半は不動産で、ほかに預貯金や有価証券が少し。遺産分割会議における長男夫妻の主張はこうだった。
「寝る間を惜しんで45年間、家業を支えてきた」「自宅で両親の介護を数年続けたから介護分を上乗せしてほしい」
それに対し弟や妹は続ける。
「家の土地は広大で、両親の遺産全体の5分の3以上はある」
「法定相続分の5分の1ずつ分けるには、土地以外の預貯金などでは足りない」
「われわれは別居して家代などもかかっている。兄さんは家賃もかかっていなかった。だから平等に分けるべきだ」
話し合いでは解決の糸口が見えないと判断した宮本家は、家庭裁判所で調停することに。顚末を、外岡弁護士が伝える。
「2年後に、土地の一部を売却して分配することで、話はまとまりました。長男は多少多くもらえたものの、数年の介護には見合わない額。他のきょうだいの取り分を捻出するために、実家の庭の一部を売却しました。一周忌にも弟や妹は顔を出さず。絆が崩壊した今、親族がそろって仏事に参列することなどは皆無でしょう」
血を分けた身内だけに、遠慮はなく、揚げ足取りの争いは深みにはまっていく。公認会計士で合同会社アールパートナーズの平林亮子代表はトラブル事例について説明する。
「いちばん多いのは3姉妹がモメるケースだと感じます。だいたい2対1に分かれやすく、結婚して別の家庭を築き、自分の家の所得で生計を立てられている2人と、親と同居または近くに住んでいて独身であるほうに分かれることが多い印象です」
最も報われないケースとして、海老原代表が挙げるのは、夫の実家に同居し、夫に先立たれた女性の場合だ。
「妻が夫の両親の家で、ひとり残された義父の介護をするとします。遺言書がなく、養子縁組もしていなければ妻には相続権がありませんから、財産はすべて夫のきょうだいに渡ります。きょうだいが血も涙もなければ、妻は家を追い出されてしまうのです」