それから高齢になると無口になりやすく無愛想で堅物。そう思われがちですが、実は理由があります。高齢になると声を出す声帯と声を出すための筋肉が衰えるため、どうしても無口になりやすいのです。

 声の衰えは特に、男性に起こりやすい現象です。加齢に伴い、声帯の萎縮が男性の67%、女性の26%に起こるといわれています。定年までは仕事場で毎日会話をし声を出していたかもしれませんが、定年後、急に話す相手は妻だけになる人が多くいます。

 すると声を出す機会が激減します。そうすると「廃用性萎縮」といって使わない筋肉が衰えていき、会話するのが億劫になります。夫婦間で距離ができてしまい、熟年離婚の原因につながるケースすらあります。

 このような状態になっていないか、チェックする方法として、「最大発声持続時間」というものがあります。「あー」という声をどのぐらい長く出せるか調べるのですが、平均は20~30秒です。男性ですと15秒、女性ですと10秒以下になったら赤信号です。

 無口な老人を見て、社交性がないとか性格が悪いと決めてかかるのは早計です。声に問題があるのかもと、意識的に見ることができれば、対応は大分変わるはずです。

会話を成立させるために“取り繕う”ことも

 ただ、スムーズに声が出せたとしても、また別の問題もあります。それが「取り繕い反応」問題。人が言っていることがわからなくても「ああ、あれね」と言ってしまったり、高齢になると覚えていないことが申し訳なくて、知っているふりをしてしまう場合があるのです。

「あれ」「これ」「それ」が増えたときには、この症状を疑ったほうがいいかもしれません。

「お昼はもう食べました?」と聞いて、「最近はすぐお腹がいっぱいになってね」と高齢者が答えたとしましょう。「そうですか、お薬は飲みました?」と聞くと、「あれは大丈夫だよ」と高齢者は答えます。

 一見会話は成立しているようですが、実際はお昼を食べたかの記憶があいまいで、薬も飲んだかあんまり覚えていない可能性があります。けれども、会話を成立させるために、高齢者は気を使って当たり障りのない会話をするわけです。

 このように取り繕うのは、認知症の前兆でもあることもあるので注意が必要です。そして取り繕いをしていると、介護側との会話を理解していないことがあるので、せっかくの会話も空虚になってしまいます。

 ここでしてはいけないのが、詳しく問い詰めること。「あれって何なの?」「ちゃんと答えてよ!」と言ってしまうと、高齢者を追い詰めてしまいます。高齢者は落ち込んだり、怒ってしまったりすることがあるのです。

 こういった場合の解決策の1つは、自分が忘れたふりをしたり、「ちゃんと聞いていなくてごめんね」という感じで、もう一度聞いてみること。高齢者が快く答えてくれる場合もあります。