介護の疲れから離婚に至るケースは皆無ではない。男女問題専門家で行政書士の露木幸彦氏は、小室と同様に高次脳機能障害の配偶者を介護する人から相談を受けることがあったと話す。
「怒りっぽくなってしまいトラブルが起きることがあります。入浴を嫌がるので注意すると“風呂に入らなくても死にはしない!”と逆上されたり、おねしょをするので“おむつして”とお願いして“バカにしないでよ!”と怒られたりした例がありました」
ストレスを感じながらも、介護中に離婚する事例は少ないという。
「“日常生活に支障がある場合”には、婚姻関係を継続できないと判断されることもあります。ただ、介護放棄にも見えかねませんし、離婚を決断することは難しいでしょう」(露木氏)
小室は妻との離婚を考えてはいないが、コミュニケーションが成立しない切なさは耐え難いものだろう。
岩本は小室にとってAさんの存在が救いになっていたのではないかと想像する。
「KEIKOさんの全快を望みに介護をしていたはずです。それが難しいと気づいたときに、心の支えにしていたのがAさんだったのでは。彼がやっと手に入れた“心の杖”がなくなってしまったら、立って歩けないのでは、と僕は思ってしまいました。
介護をしていた身からすると、見て見ぬふりをしていてほしかったな、と思います」
KEIKOは大好きだった音楽にも興味をなくしてしまったという。再び歌手として歌うことを望んでいた小室には、寂しすぎる状況だ。
「彼女本人には、そういった愚痴を言えるはずはないし、以前のような会話もままならない。どこかに救いを求めたくなるのはわかります」
岩本が自分を保っていられたのは、介護を助けてくれる存在があったからだ。