年寄りは謙虚で可愛くならなきゃ
老いることに不安を感じる人は珍しくない。お金や健康、さらに孤独や死への恐怖と、悩みは尽きない。
「年をとるって厳しいことであり、つらいこと。でも、そんなときこそ近くを見るのではなく、遠くや過去を見るようにするんです。例えば、戦争で命を失った人たちのことに思いを馳せたら、あれもイヤこれもイヤと言えなくなるはず。たくさんの不安を抱えていても、少しずつ解消していく手立てになります。
誰でも死ぬときは死ぬんだから。エアコンだって壊れるし、人間だって寿命が近づけばギクシャクする。有機物から無機物に変化することを死だと思えば、なんの不安もありません」
結婚はせず、ひとり暮らし歴は現在、40年目。53歳のときに購入したマンションに、妹から譲り受けた猫1匹と一緒に暮らしている。
「街で横柄な年寄りを見かけると、イラッときちゃう。いつまでも元気でいられるわけがないんだから、もっと謙虚で可愛くならなきゃダメ。おひとりさまで生きようと思ったら、自分を律して、自立することが大事。ひとり暮らしは、誰も助けてくれないの」
食事を作ったり、掃除をしたり、お金を管理したり。生活するうえでやらないといけないことはいっぱいある。生き方は気ままでいいけれど、やるべきことは自分でやる。それがひとり暮らしの心構えだという。
なるほど、阿部さんの自宅は、どこもすっきり快適な空間が維持されている。なのに、掃除機をかけるのは2週間に1度だけ。部屋に物が少ないため、ふだんは目立つホコリさえ掃除すればいいからだ。
クローゼットも押し入れも、必要な物だけを収納しているのでどこに何があるかひと目でわかる。使いやすい場所にしまえば、探し物をする手間も省け、片づけもラク。
「物をためこまないことが鉄則。洋服も、やせたら着るなんて絶対にありません。着られなくなったものは段ボールにまとめておき、たまったら即、リサイクルに出すか、知人に譲ります」
シニアが快適なひとり暮らしを送る秘訣は、毎日の掃除や片づけではなく、“それをしやすい部屋作り”にあるようだ。
阿部さんは、自立した生活をするなかで、自分がやりたいことを見つけて、人生を楽しむことも忘れない。
ライフワークは海外でのホームステイ。生活研究家としての取り組みでもある。ドイツや北欧の国々などへ出向き、エコや環境への取り組みを視察し、体験するのが目的。そのために仕事をし、貯金にも励む。
「昨年までは海外に行きましたが、今年は仕事があるから行けないかな。ご迷惑をかけないように、新しい職場になじむことが先。この年で最年長の新人ですからね(笑)」
〈PROFILE〉
あべ・あやこ ◎薬剤師として洗剤メーカーに勤務したのち、生活研究家として独立。百貨店の消費者相談室に30年以上、勤めて退職。64歳からは、再び薬剤師の資格を生かして働き始めた。最新刊に『ひとりサイズで、気ままに暮らす』(大和書房)がある。