眠れぬ夜にも幸あり
今年の4月から洋子さんが加わり、和田京子不動産は3世代3人体制になった。
同業者からも一目置かれるようになったのだろう。顧問弁護士の太田真也さん(42)に聞くと、以前のような嫌がらせやトラブルはないという。
「この会社の規模で年商5億円って、普通は難しいですよ。それなのに和田さんのところは、ガツガツした感じがなくて、本当にアットホームな雰囲気なんです。契約の書類をチェックするときも、3人でていねいに見ています。ほかの不動産会社だとだいたい担当の人だけですけどね。ご家族一体になって協力してやっているので、より安心感があるんじゃないですかね」
強引にでも売ろうとする業者がいるなか、顧客目線を貫く和田京子不動産が人気になるのは、当然ともいえる。
問題は忙しすぎることだ。電車でつり革につかまり立ったまま寝てしまい、何度も乗り過ごしたという京子さん。娘が加わり、「眠る時間ができた」と喜ぶ。
そんな88歳は、どこを探してもいない。どうして、そこまで頑張れるのかと聞くと、ちょっと違うのよねとやんわり否定した。
「頑張るというより、仕事を順にこなしていると眠る時間がなくなっちゃうだけなの。私は手がのろいし、頭の働きものろい。鈍行列車だから行きつくまでに時間がかかってしまうんです。この年になるとね、やりたくないことはやりませんよ。この仕事が好きなんです。眠るより仕事をしたいんですよ」
今ひとたびの青春はまだまだ、真っ盛りだ。
幸せですかと聞くと、勢いよく返事が返ってきた。
「はい!」
(取材・文/萩原絹代 撮影/齋藤周造)
はぎわらきぬよ◎大学卒業後、週刊誌の記者を経て、フリーのライターになる。'90年に渡米してニューヨークのビジュアルアート大学を卒業。'95年に帰国後は社会問題、教育、育児などをテーマに、週刊誌や月刊誌に寄稿。著書に『死ぬまで一人』がある。