開発なんて誰も信用しなかった
10・7ヘクタールにおよぶ敷地は、すべて町有地。もとは町が購入して10年の間、一向に開発が進まず、日本一、費用のかかる「雪捨て場」と揶揄されていた場所だった。
この「塩漬け」された土地を、人々を呼び寄せるエリアに導いたのは、「公民連携」という手法だった。
岡崎さんたちは、まず入居する優良テナントを決めて、建物の規模や建設費用を算出。こうすることで無駄を省き、コストカットを図った。
その後、建てられた公共施設部分を紫波町に売却。それ以外は、東北銀行や政府系金融機関からの融資でまかなった。こうして補助金に極力頼らない町づくりを実現させたのだ。従来の公共事業とまったく異なる「公民連携」の取り組みは、一躍脚光を浴びた。
岡崎さんが言う。
「このまま空き地を持ち続けていると、周辺の不動産価値も下がってしまう。これはものすごく恐ろしいリスク。そのうえ人口が減り、1人当たりが納める税収も減っていくと、さらに下落し続けることになります。
そのため、まずは私たち民間と町とで、このままではどうなるかというリスクと、開発後のリターンについて洗い出した。それから、マスタープランはわれわれが案を出すので、行政でインフラ整備を担ってほしいと伝えました」
民間である岡崎さんたちは宣伝や集客を担当。金融機関から資金調達して開発を進めた。そのリスクを負うかわりに収益を得て、納税すれば、町の税収を増やすこともできる。
「土地が塩漬けされた10年間、みんな疑心暗鬼でした。開発なんて誰も信用しなかった。新聞には“黒船”とか書かれ、町民からは“変なものがやってきたな”とさんざん言われましたよ」
オガールプラザの中核には紫波町図書館がある。岡崎さんたちプロジェクトチームは発想を転換し、図書館を単なる公共施設ではなく、「大きな集客施設」と位置づけた。
「年間で10万人以上は訪れるという仮説を立て、テナントを募集したのです。図書館は無償で開放しつつ、そこを訪れる人たちに、カフェやクリニック、生鮮食品の販売をする民間テナントで消費してもらう。そこから家賃や管理費を集めて稼ごうと考えたわけです」
こうして図書館は「稼げるインフラ」となった。町民にとっては、勉強やおしゃべりをする憩いの場でもある。いまや年間利用者は当初の予想を大きく超えて30万人を突破した。
「紫波は農業従事者が多いので、図書館内の『農業支援サービス』コーナーは充実しています。勉強会やトークショーなどのイベントも盛んで、たくさんの人が集まります」
そう工藤巧館長は言う。