シングルマザーだったからこそ
業界紙の『全国賃貸住宅新聞』で連載が始まり、知名度はさらにアップ。セミナーや講演にも呼ばれるようになり、活躍の場を広げていった。
その一方、どんなに忙しくても、息子に会いに行った。
山村留学の保護者として出会った、ママ友の槙倫子さん(58)が話す。
「年に10回ほどある、親が参加できる行事に、章ちゃんは毎回欠かさず来ていました。大阪から長野まで、片道430キロの距離をひとりで運転して。仕事を終えてから来るので、着くのはいつも深夜。あの性格なので、疲れた顔は見せなかったけど、どれだけ大変だったか。思春期の息子さんは、章ちゃんが来ても、うれしさは顔に出さなかったけど、お母さんの気持ちは伝わっていたはずです」
山村の中学を卒業後、息子はカナダの高校に留学。
自立心旺盛の息子に負けないよう、太田垣さんも、独立から5年後、2011年に、大阪から東京に進出。
ゼロから顧客を開拓し、8年目を迎えた今、5人のスタッフを雇うほど、仕事を軌道に乗せている。
「24歳になった息子は、大阪で頑張っています。いろいろ模索中みたいだけど、大自然の中で育って、サバイバルにはめっぽう強いですからね。どんな大人になるか、楽しみにしてます」
太田垣さんの事務所には、毎年、母の日に花が届く。
「章先生は、私にとって第二のお母さんなんです」
そう話すのは、贈り主の岩崎美和さん(仮名・37)。
7年前、当時の夫が家賃を滞納し、太田垣さんから督促が来たのが始まりだった。
「夫の無責任さに驚き、“そんな男とは別れたほうがいい”と、いきなり章先生に言われて、2度びっくり(笑)。離婚のときは、弁護士も紹介してもらいました。母子家庭になって働き始めたころは、よく覚えていないほど大変でしたが、章先生は法的なアドバイスだけでなく、シングルマザーの先輩としても、仕事の道筋をつけてくれて。ようやく生活が安定して、恩返しのつもりで花を贈っています」
シングルマザーの太田垣さんは、同じ立場の女性への思い入れが人一倍、強い。今回、出版した本の印税も、全額をシングルマザー支援のために寄付するほどの力の入れようだ。
「家賃を滞納するシングルマザーは、別れた夫からの養育費が払われず、実家の親も頼れないケースがほとんどです。1度、貧困に陥ると、生活の立て直しは難しい。マイナスのスパイラルから抜け出せず、子どもの代にも貧困が連鎖してしまう。そうならないためにも、母親が経済的に自立できる新たな仕組みが必要なんです」
太田垣さん自身、司法書士に合格するまで丸6年、貧困生活を余儀なくされたのは、6万円台の家賃が重くのしかかったから。
この部分を、国や行政で負担する仕組みを考えている。