地方のよい点は「たらい回しにされない」
しかし、地方にいることで医療のいい点もあります。最大のいい点は、たらい回しがないこと。地方になると、たらい回す先がないからです。
医者は自分が断れば、次にどの先生に救急車が行くのかがわかります。山形で私が救急を担当したとき、私が断れば「平松のやつ、断ったな」ということがすぐに他の医者に伝わります。「今は学会でいない」「単身赴任で、週末は家に帰っている」という詳しい個人情報まで知られています。
ですから、自分の病院に空きのベッドがなかろうが、忙しくて大変だろうが、寝てなかろうが、自分が診るしかないと思います。山形にいたときは3日に1回は救急当番をしていましたが、断ることはありませんでした。
一方で都会ですと、自分が診なくても誰かが診てくれます。「ベッドがいっぱいだったらもういいか」「もうすでに緊急患者が来ているから、もし引き受けて手いっぱいになったらよくないな」と思い、断ることへの抵抗感が小さくなります。
ですから都会は、たらい回しがありえます。特に宮城、茨城、栃木、埼玉、千葉、東京、三重、大阪、兵庫、奈良は要注意(※2)です。特に気をつけないといけないのは、妊娠していたり、持病がずっとあったりする(例えば、精神的な病気、脳疾患、心臓疾患、透析などの腎臓系の病気)場合です。
なぜならば、新しく生じた病気を診る専門医だけでなく、もとの疾患を診られる専門医も必要になるからです。だから、大きな病院でかかりつけをつくっておく必要があります。
例えば、もともと腎臓の状態がかなり悪く、新たに脳出血の疑いがあったとします。都会でしたら、脳出血の有無を診られる病院は多いでしょう。緊急手術が必要なら、脳神経外科の先生が対応してくれることもある。しかし腎臓が悪いとなると、「腎臓が悪いとどの薬を使えるのか難しいな。腎臓の先生は今日お休みだし。だったら腎臓の専門の先生もいるところに行ってもらったほうがいいかも」と思って断ることもあります。
ただ、「あなたの病院のかかりつけの患者です」となると、「腎臓の先生は今日はお休みだけど、もともと診ていた患者さんか。なら夜に電話して、相談しても対応してくれるかもな。じゃあ、受けようかな」となります。
地方では主治医をきっちりつくることが大切
それから地方の医者は、地元に対する思いがすごく強いです。職員もそうです。ふまじめになりにくいです。例えば、さぼってパチンコやゴルフに行っていたら、地元のみんなにバレてしまいますから。本を買って勉強していたら、それもみんなに知れ渡ります。
また、患者さんはみんな近所の人なので、偉そうにしていても冷たいわけではありません。一生診ていくという気持ちが強いです。職員も都会だと、家に帰ったら患者さんは周りにいない。だから医療の現場と普段の生活が分離しています。でも患者さんが隣の家の人だったら、態度がよくなるというのがわかると思います。
ですから地方にいるのであれば、主治医をきっちりとつくると、本当にしっかりやってくれます。家族ぐるみで心配してくれますし、生活習慣も考えてくれます。
以上のように都会と地方には、それぞれメリット・デメリットがあります。自分が住んでいる都道府県では医者の数が多いのか、少ないのか。救急患者の受け入れ体制はどうか。状況を調べておくことが安心して医療を受けるために必要なことと言えます。
※1)平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況 厚生労働省 ※2)平成28年中の救急搬送における医療機関の受入れ状況等実態調査の結果 厚生労働省 平成26年のデータを使用
平松類(ひらまつ・るい)
医師/医学博士/昭和大学兼任講師。愛知県田原市生まれ、東京の多摩地区育ち。昭和大学医学部卒業。全国を渡り歩き、大学病院から町の小さな診療所まで、全国各地の病院に勤務し、病院の裏側も膨大に見てきている。現在は、二本松眼科病院、彩の国東大宮メディカルセンター、三友堂病院で眼科医として勤務。専門知識がなくてもわかる歯切れのよい解説が好評で、テレビ、雑誌など連日メディア出演が絶えない。著書は、15万部突破の『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った!』『緑内障の最新治療』(時事通信社)など多数。