腫瘍マーカーとしてよく用いられる「CA19-9」という検査項目があります。この陽性率(異常値となる割合)を見ると、胆道がんや胃がん、大腸がんではとくに、病期(ステージ)が低い方が(早期である方が)陽性率が低く、最も進行したステージ4であったとしても、陽性率は60~80%程度。

 つまり、10人に2~4人は、進行したがんがあっても腫瘍マーカーは基準範囲にとどまることがわかります。乳がんの各種の腫瘍マーカーの陽性率についても、同じような結果が出ています(「臨床検査のガイドライン2005/2006」日本臨床検査医学会より)。

 つまり、血液検査で腫瘍マーカーを測定して基準範囲に入っていたとしても、がんではないとは言い切れない以上、まったくもって安心できないのです。早期発見に役立たないだけでなく、進行していてもなお発見が難しいのであれば、やはり「がんかどうかを調べるツール」としては不十分です。

がんがなくても異常値が出ることのデメリット

 もちろん、ここまで読んで、「腫瘍マーカーが正常ならともかく、もし異常値が出て進行したがんが見つかるなら、早期発見でなかったとしても、それだけで意味はある」と思った方がいるかもしれません。

 残念ながら、腫瘍マーカーにはもう1つの大きな欠点があります。「偽陽性」という問題です。

 腫瘍マーカーは、がんに関連して血液中に流出する物質ですが、「がんであるときにしか産生されない物質」ではありません。がん以外の病気でも上昇することは多々あります。がんではないのに検査の結果が「陽性」になってしまう、ということです。

 例えば、前述の「CA19-9」は、胆のう炎や膵炎、肺の病気など、がん以外の多数の病気で上昇することがあります。

 同様に、消化器がんや、肺がん、乳がんなどで上昇することがある「CEA」も、肝臓や膵臓の良性の病気で上昇することがあります。またCEAは、喫煙者であるというだけで高い値を示すことも多い腫瘍マーカーです(福田一郎ほか「人間ドック受診者のCEA値に及ぼす喫煙の影響」日本人間ドック学会誌1996,11:2,137-140より)。

 実際私たちも、「腫瘍マーカー高値」という検診の結果を持って患者さんが病院にやってこられ、精密検査をして「何も異常が見つからない」という事態を数え切れないほど経験しています。「腫瘍マーカー」という言葉でありながら、「がんだけで上昇する項目ではない」という点に注意が必要なのです。

 偽陽性の場合、患者さんは本来必要がなかったはずの精密検査を受け、その検査費用と度重なる通院の手間、体への負担、検査のリスクを負うことになります。