梅毒患者が急増している。梅毒は性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症だ。「原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、病名は症状にみられる赤い発疹が揚梅(ヤマモモ)に似ていることに由来する。感染すると全身にさまざまな症状が出る」(厚生労働省ホームページより)。性感染症、いわゆる性病の一種である。

 国立感染症研究所によれば、2014年に1661件だった梅毒患者は2015年に2690件、2016年4518件、2017年5770件、2018年6923件と右肩上がりに増えている。

 先日、同研究所は、2019年の上半期に報告された女性の梅毒患者1117人中、106人が妊婦だったと報告した。

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 妊婦が梅毒に感染すると、胎児に影響することがある。梅毒菌が胎盤を介して、胎児に感染するからだ。髄膜炎、水頭症などさまざまな合併症を起こす。このような状態を先天性梅毒という。

日本に限らずアメリカでも梅毒は急増中

 実は、このような状況は日本に限った話ではない。アメリカでも梅毒は急増中だ。先天性梅毒が深刻な問題となっている。

 昨年9月、米疾病対策センター(CDC)は2018年の先天性梅毒の報告数が918件で、2013年の362件と比べ、約3倍に増加したと発表した。

 同時にアメリカの予防医療特別委員会(USPSTF)は、すべての妊婦は早めに梅毒検診を受けるべきだという勧告を発表した。

 アメリカ政府は2009年以降、同様の見解を繰り返している。2016年には梅毒の治療に用いるペニシリン製剤の注射が不足し、社会問題となった。ファイザー社の製造が遅れて、必要量の3割しか供給できなくなったためだ。

 多くのアメリカ国民が梅毒感染の深刻さを知ったはずなのに、事態は一向に改善されない。なぜだろう。

 いくつかの理由が挙げられている。まずは、1940年代にペニシリンが普及し、梅毒は過去の病気という認識が広まったことが挙げられる。1948年には日本国内で22万人もの患者がいたが、その後激減した。

 医師の関心を反映する指標として、論文数がある。アメリカの医学図書館のデータベース(PubMed)を用いて、「梅毒(syphilis)」という単語を表題に含む日本からの論文を調べたところ、わずか130報しかなかった。2014年までの論文数は年間に2~5報程度だ。