鳥取大の安藤准教授(写真左)、横浜市大の有馬准教授(同右)
鳥取大の安藤准教授(写真左)、横浜市大の有馬准教授(同右)
【写真】高木さんが幇助自殺の権利を得た際のSNS投稿には「これでやっと死ねる」との文字が

賛否両論が飛び交う安楽死

 問題が命にかかわるだけに、専門家の見解はさまざまだ。

 横浜市立大学の有馬斉准教授(倫理学・生命倫理)は、

「命をそんな簡単にあきらめてもいいのか、という議論や海外に渡航して安楽死をするのはどうなのか、という議論ももっとあってもいい」

 としたうえで、

安楽死を認めてもらったほうが、いいかもしれない人がいるのも理解できる。いつでも死ぬことができる、となればその期間までは病気のことは考えずに過ごせ、それは希望になるかもしれない。他方、同じ病の人にとっては生きることのプレッシャーになったり、同じ状況の人が死んでもいいと認められたら、自分の生も否定されている気分になるかもしれない」

 と指摘。安藤准教授も、

「もし安楽死が許されるなら、命が軽くなってしまう。同じ病気や障害があっても生きたいという人の権利が侵害され、生きづらい社会になったらいけない」

 と弊害を危惧。当事者を支える仕組みの大切さを説く。

「同じ病気でも希望を持って元気に生きている人がいる。生き方の情報交換をしたり、どうすれば自分が楽かを考えたり。そういうことは医学だけでは決まらないので、ひとりひとりの生活での工夫、介護、医療、みんなで当事者を支えることもできるのでは」

 医療スタッフや両親など周囲の支援の中で高木さんは、長く闘病してきた。

「ここ7年弱で計60回近くの治療をしました。毎月、1週間入院。退院後しばらくしたら入院の繰り返しでした」

 と、果てしない闘病のスパイラルにからめとられてきた。

 賛否両論のある安楽死は、その思考の深淵で納得する形でつかみ取った、高木さんの希望なのである。

「両親は、私の苦悩もある程度理解している、と言ってくれていますが、苦痛の肩代わりは誰にもできません。“わかるよ”と言われても、それは想像の範疇を出なくて、本当のつらさはわからないんです」