高木さんが入会した幇助団体へは日本からもアクセスできる(同団体ホームページより)
高木さんが入会した幇助団体へは日本からもアクセスできる(同団体ホームページより)
【写真】高木さんが幇助自殺の権利を得た際のSNS投稿には「これでやっと死ねる」との文字が

残された時間をより豊かに過ごすため

 さらに安楽死は重篤な病気などで身体が動かない、意思の疎通もできない、そうしたつらい状態を長引かせることなく、より悔いのない人生を送るための選択肢のひとつになりうるのではないかとの可能性も示す。

「不快に思う人もいるとは思いますが、人によっては自分のタイミングで人生の幕を下ろせるからこそ豊かに生きられる人もいるのではないかと思います」

 とはいえ、安楽死を楽に死ねる言葉としてとらえられることには、断固としてノーの意思を示す。高木さんが、幇助自殺の権利を得たことをSNSで発信したところ、“どうやったら死ねるんですか?”というメッセージが数多く届くようになった。

安楽死をはけ口のように使うことや、死ぬ権利と結びつけることはどこか違うのではないかと思っています。死ぬ権利はあってもいいし“安楽死で死にたい”と発言することはできますが、安楽死そのものは誰でも簡単に受けられるものにすべきではないと思うんです。

 一切の恐怖や覚悟なく安楽には死ねませんからね。これはあくまでも自殺なので

 改善しない精神疾患の方からの問い合わせも多い。しかし、スイスでも精神疾患患者の幇助自殺は非常に難しい。正常な判断力があることが確約されなければ審査には通らない。病気の症状としての自殺願望や衝動性があるなどの状況が考えられるからだ。それだけ理性的な選択が求められる。

 高木さんはスイスに渡る時期を、「半年後、遅くとも1年後までには」と考える。

 そして自身の生の行方を、次のように伝える。

「現地では2人の医師の診断と2日間のクールダウン期間があります。幇助はこの期間内にいつでもキャンセルすることもできます。もしかしたら明日、急に何か生きていたいという理由ができるかもしれない。そうなったら安楽死はしないかもしれないですね。だから最後まで早く死にたいとか、死だけが目的にならない生き方をしたいと思っています。

 その日が来るまで、自分がより豊かで穏やかに生きるために何ができるか、ということは心にとどめておきたいです」

 目下の希望として、『安楽死で死なせて下さい』(文春新書)を書いた脚本家の橋田壽賀子さん(94)に会って話をしてみたい、と漏らす。ほかにもいろんな人に会って話をしたい。会いたい人に会えたそのときは、こう質問しようと決めている。

「どんな人生を送ってきたの」