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「骨の髄までしゃぶられそう」

 神奈川県に住む亜紀さん(64)は九州の実家でひとり暮らしをする母(90)に振り回されてきた。要支援2の母は介護サービスを利用し、亡き父の遺族年金で生活している。母を案じ定期的に帰省する亜紀さんだが、いちばんの負担はおカネを無心されることだ。

「訪問販売で買った商品代金や自宅のリフォーム費用が払えないと懇願され、私は毎年、数十万円の援助をしてきました。母の散財に悩んで呼び寄せ同居の話を進めたら、直前でキャンセルされたことも。“犬を飼い始めたから無理”と言うんです。おまけに犬のワクチン代まで頼ってきて、まるでパラサイトですよ」

 それでも母を支えてきたのは、子ども時代の記憶がぬぐえないから。亜紀さんの故郷は男尊女卑が根強く、「女」というだけで差別された。兄がいた亜紀さんは父や祖父母からうとまれ、母も夫の暴力や姑のいじめに苦しんだ。母娘で耐え忍んだ過去を思うと、そう簡単に見放せない。

「母は乏しい生活費の中から、学費を捻出(ねんしゅつ)してくれました。おかげで私は看護師になれたし、夫や子どもにも恵まれた。自分が手にした幸せは母の苦労があったから。そんな気持ちで、つい助けたくなるんです。そもそも母の散財の裏には田舎特有のしがらみもある。顔見知りで断れないとか、義理で買うとか、そういう事情も考えてしまいます」

 高齢の母の先行きを考え、「あと少しのガマン」と自分に言い聞かせる一方、「骨の髄までしゃぶられそう」と口にする亜紀さんからは、母への複雑な思いが垣間見える。