情報にたどりつける人と、そうでない人の差

 そこから、まさに藁をもすがる思いで、図書館やネットでスキルス胃がんについて情報を調べ始めるが、

「当時、このがんは胃がんの中の1項目として名前がある程度で、ほかの病気に比べ詳しい情報が本当に少なかった。そのうえ『予後が悪い』などネガティブな情報ばかりでした」

 浩美さんは絶望感に包まれ、助けたい一心で民間療法にもすがったという。そんな中、哲也さんは当時やっていたブログに書き込まれた情報から、スキルス胃がんの臨床試験があることを知る。

「夫婦で喜び、問い合わせましたが、参加条件に抗がん剤での治療を行っていない患者というのがあったんです」

 すでに抗がん剤治療を始めていた哲也さんは対象外だった。

悔しかったです情報にたどりつける人とそうでない人の差がどうしてあるのか

 その後、夫婦で仕事を辞め、引きこもる時期もあったが、哲也さんは、もっと前向きになろうとブログを発信。患者会『希望の会』を立ち上げた。するとさまざまな講演会から声がかかり、車イスに乗りながら自身の体験を語るようになる。 

 浩美さんもスキルス胃がんの存在や患者が直面する現実を知ってもらう冊子を作り、助かる命を救うため、ロビー活動も始めた。

 しかし、'16年8月──。哲也さんは家族に感謝の言葉を遺し、54歳の若さで旅立ったその後、がん対策推進基本計画』の改正で、スキルス胃がんは『難治がんとして明記された

がん告白の後に友人たちが主催してくれた励ます会。右が哲也さん
がん告白の後に友人たちが主催してくれた励ます会。右が哲也さん

 

夫の活動の成果のひとつとしてうれしく思います

 哲也さんは“知ることは力になる”と旅立つ20日前まで、患者が正確な情報を知る重要性を講演し続けた

 現在、浩美さんは、自らの経験から、全国胃がんキャラバンのほか“あのときに知りたかったこと”を発信する活動に取り組んでいる。

1人でも多くの人があふれる情報に惑わないよう、正しい情報の発信を続けたいです

取材・文/松岡理恵


轟 浩美さん
2016年、夫の哲也さんから引き継ぎ、スキルス胃がんの患者・家族会「希望の会」理事長に。スキルス胃がんの情報提供や患者・家族の交流会、医師による勉強会・講演会なども開催。'18年から2年間、厚生労働省がん対策推進協議会の委員も務めた。認定NPO法人「希望の会」https://npokibounokai.org/