左は大福、再建した右はグミ
乳がんの診断を受けたのは'18年3月だ。
どこの病院を選ぶか。手術は温存か切除か。切除なら乳房を再建するかしないか。選択肢を示されて、篠田さんは知り合いの医師などにも相談して冷静に決断した。
1か月後の4月に聖路加国際病院でがんを切除。転移の可能性はまずなく抗がん剤治療も必要なかったが、ホルモン剤の投与のみ行うことに。そして、8か月後にシリコンを入れる再建手術を受けた。
「以前、乳がんの患者さんが出てくる小説を書いたことがあって、手術はうまくいったけど、ずっと再発に怯えて人生観まで変わって……と書いたんですけど、よせばよかったなーと(笑)」
実際に自分が乳がんになったら、想像とはまったく違っていた。
「聖路加の先生たちの対応はサクサク進むし、余計なことで悩む暇もない。それに“実は乳がんでさぁ”と言うと、“私も何年か前に”という人が周りにいっぱいいるんですよ。みんな生きているし、彼女たちの話からこれから先どうなるのかわかるし。私にとっては、ありふれた病気という感じですね」
前出の職場の先輩である倉田さんも乳がんになり、10年前に温存手術をしている。
「篠田さんはいつも、私の胸を大きいと言うから、“全部取ってシリコンを入れるなら、もっと大きくしてもらえないの?”と言ったら、クソーと悔しがっていました(笑)。本当に大きすぎると重いし大変なんです。年をとるともういらないですよ。そんなこと言うと、乳がんの人に怒られちゃうかな(笑)」
篠田さんが再建を決めた理由はシンプルだ。スイミングをするとき水着の中に入れたパッドがはずれてプールにぷかぷか浮かぶ様子を想像し、「絶対に、嫌だ!」と思ったのだ。
「見てみる?」
そう言って、胸を広げて触らせてくれる。乳輪と乳首は作っていないので、ふくらみの上に横に1本線のような傷痕がうっすら見える。
「左は大福。再建した右はグミみたいでしょ。拘縮といって、皮膚が縮んでシリコンとくっついちゃうことがあるそうだけど、私は水泳で動かしているから大丈夫です。違和感はありますよ。ズキズキ、チクチク。季節の変わり目とかに出てきます。でも、まあよかったんじゃないかな。その気になればビキニも着られるし(笑)」
終始あっけらかんとしている本人とは異なり、夫は内心、不安もあったようだ。乳がんの診断以来、ずっと冷静で普段どおりに振る舞っていたが、妻の手術当日は朝ごはんを食べられなかったという。
「私の父親が悪性腫瘍で亡くなっているので、そのイメージが頭にあったし、もし入院が長引いたら義母の対応をどうしようかと」