自分をいちばんよく知っているのは自分
イメージとしてわかりやすいのは、「ファミレスで友達の相談に乗る」というシチュエーションである。ぬいぐるみの相談に乗るあなたは、同時に「自分はどうするべきか?」を真剣に考えているというわけ。
「これを行うと、驚くほど自分の口からアドバイスが出てきます。実は、あなたの中に『自分はこうしたい』『本当はこう思っている』という答えがあるのに、それを言語化できていなかっただけなのです。普段の生活でそういう質問を投げかけられる機会ってほとんどないですからね」
例えば、「職場の後輩を見ているとイライラして人間関係がうまくいかない」と悩んでいたとする。あなたは「後輩のどういうところにイライラするの?」とぬいぐるみに質問し、今度はぬいぐるみ側に座って「私が指導しても返事をしないんだよね」と答えを返す。このやりとりの中で「返事がないから後輩が嫌だったんだ」と初めて自分の本心に気づくのだ。このときに大事なのは声を出すということ。
「ワークを実践した方々からは『自分の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった』という感想を多数いただきました。声に出すことで自分でも気づいていなかったことをポロッと口にし、そんな自分にハッとする。でも、声を出さず頭の中だけでやっていると想定内のことしか起きません」
アドバイスに私情が入っていないというのもメリットのひとつ。親友から相談を受けるという設定なので、「子どもに悪い」「ママ友から変に思われる」といった気遣いのつけ入る隙がないのだ。例えば「夫との離婚を迷っている」と周りを巻き込むような悩みを抱えていた場合。
でも、設定上は自分ではなくぬいぐるみの悩みなので、他者へ気を遣わずにアドバイスできる。それは自分だけにフォーカスしたあなたの本心だ。また人から受けるアドバイスより自分からのアドバイスのほうが腑に落ちるのもこのワークの特徴である。
「ほとんどの人は自分の芯や価値観ができあがっています。だから、アドバイスされても『う~ん、そうは言っても……』と口答えしたくなりがち。でも自分からのアドバイスには口答えできません。『私って意外と自分のことをわかっていたのね』と自信回復にもつながります」
カウンセリングの手順を見て気恥ずかしさを感じる人がいるかもしれない。でも、ペットの犬や猫に「今日の晩ごはんは何がいいと思う?」などと話しかけた経験はないだろうか? これをぬいぐるみに置き換えると、実はそのまま自己対話である。すでにみなさんもワークに近いことを経験しているのだ。
「そういった日常の延長線上にあり、より深いものにしたのがぬいぐるみカウンセリングです」
答えは自分がいちばんよく知っている。ぬいぐるみを使って、これからどうしたらいいか、自分の力で掘り下げてみよう!
教えてくれたのは…… 橋本翔太さん
臨床心理学専攻教育学修士/心理カウンセラー、音楽療法家。音楽教員を経て現在の活動を開始。日本にとどまらずシンガポールを中心に南アジア圏でも活動中。『聴くだけうつぬけ』(フォレスト出版)など、著書多数。YouTube「橋本翔太の心理学+音楽療法+栄養療法」も好評配信中。
取材・文/寺西ジャジューカ