検査を避けると発症に気づかず、
死に至る場合も
定期的な受診だけでなく、病気を早期発見するための検査を躊躇(ちゅうちょ)する人も多かった。
東京脳神経センター理事長の松井孝嘉医師も危惧する。
「MRIやCTで脳を検査する脳ドックの検診者も減っています」
検査をすれば脳卒中につながりそうな脳の血管の状態や微細な出血の有無など、兆候を発見できる。
脳の病気には脳腫瘍や脳卒中など、発症する前は自覚症状に気づかないものもある。そのため、発症に気づかず重篤な後遺症が残ったり死に至る場合がある。
「がん検診の受診もこれまでの3割ほどに減っています。初期に見つかれば完治する可能性が高いがんなのに、『ステージII』『ステージIII』と悪化した状態で発見されるケースも考えられます」(前出・植田さん、以下同)
発見が遅れると生存率は下がる。コロナが落ち着いてから検診したときには医師から「余命1年」と宣告されることもありえなくはない。治療や検査を怠った結果、寿命を縮めることになりかねない。
「治療における患者の負担も大きくなりますし、医療費も高額になります。病気が悪化した状態で発見されたり、治療中の症状が進行していたりなど、今後はいろいろな形で報告されるでしょう」
高齢者が家にこもったままだと
老化が一気に進む
また、悪化するのはなにも病気だけではないのだ。
「高齢者が家にこもったままだと老化も一気に進みます」
筋肉が減少する『サルコペニア』や心身が衰弱する『フレイル』は高齢になれば誰にでも起きる。それらを予防するためにもウォーキングや適度な運動が求められている。
植田さんはこのコロナ禍で起きたある事例を語る。
「80代の知人は外出自粛前は元気に歩いていたのに、2週間自宅にこもっただけで自らの力で立てなくなりました。体力の衰えに気づいた直後に身体を動かせれば筋力や体力を取り戻せます。ですが、それもせずに、ずっとこもったままで動かないと老化のスピードは加速してしまいます」
歩かなくなれば筋力が衰える。脚が上がらなくなれば、畳のヘリのような小さな段差にひっかかって骨折したり、正座した脚を横にくずしただけで脚の関節がずれたり。寝たきり状態に陥るような大ケガを自宅で負うことも。
命には直接関わらなくても、治療を放置すれば取り返しがつかなくなる病気もある。
「目は網膜剥離の進行が懸念されています」
“網膜剥離”とは眼球内にある網膜がはがれ、視力が低下する病気。緑内障を放置したり、老化現象のひとつとして発症するという。
「早期発見できれば治ります。ですが、治療する機会を逃せば最悪、失明する可能性もあります」
失明すれば、これまでのような日常生活を送ることは不可能だ。