スマホ使いすぎの『首コリ病』には
うつ病のような症状が
前出の松井医師はコロナの巣ごもりで、スマホの使いすぎによる健康被害についても指摘する。
「スマホの小さな画面で動画を見たり、メールを送ったりして下を向いている時間が増えた人もいるでしょう。下を向きっぱなしだと、首の筋肉に過度な負担がかかり、頸性(けいせい)神経筋症候群、いわゆる『首コリ病』を発症します」
首を支える筋肉が緊張して硬くなり、副交感神経を圧迫する。その状況が慢性的に続くことで身体中にさまざまな不調が現れるのだという。
「首の痛みや頭痛、けん怠感、微熱、不眠、不安、めまいなどの症状があります。ほかにも食欲不振、下痢などの胃腸症状、ドライアイといった全身症状となって現れます」(松井医師、以下同)
コロナ禍で増えた若者や女性の自殺、うつ状態もこの首のコリが原因である可能性は高い、と松井医師は推測する。
「“首コリ”による神経の不具合は強い不安感を引き起こすことがあります。それは精神疾患のうつ病と非常に似た症状なんです。ほかにも集中力が低下して、物忘れがひどくなるなど認知症のような状態を訴える人もいます」
松井医師によると、うつ病のような症状を訴えて受診した患者の95%に首コリの異常がみられたという。
さらに、たかが首コリ、と放置すれば命にかかわることもあるという。
「実は精神的な不調を訴える首コリ患者の自殺率が極めて高いんです。抗うつ薬や精神安定剤を飲んでいても首の神経を治療しなければ改善されません」
首の治療をすれば精神的な不調が回復する見込みもあるのだ。
コロナの検査やワクチン接種はもちろん必要だ。しかし、それ以外の病気の検査や治療を怠ってしまえば命を左右するリスクが高まる。
前出の栃内歯科医師は、
「歯科で“痛み”が出たときには手遅れな状態のことが多い。歯科に限らず、病院に通うことは“不要不急”なことではないんです。1人でも多くの方が正しい判断をすることを願っています」
安易な自己判断はやめ、きちんと通院しよう。コロナよりも怖い病気は世の中にたくさんあるのだ。
コロナ禍で増えた病気
<巣ごもり>
【運動不足】
・生活習慣病 ・高脂血症 ・糖尿病
・心筋梗塞 ・脳梗塞など
【外出自粛】
・筋肉の衰えと骨がもろくなり骨折
・認知症など
【スマホの使いすぎ】
・首の筋肉の緊張が原因で全身の不調やうつ状態に
<検診控え・治療中断>
【がん検診】
・ステージが進行して生存率が下がる
【脳ドック】
・脳梗塞、脳卒中の進行など
【歯科検診】
・歯周病が悪化して糖尿病や心筋梗塞、認知症などに
【眼科検診】
・緑内障を放置して網膜剥離に。最悪は失明する
【婦人科検診】
・更年期障害の悪化など
お話を聞いたのは─
医学ジャーナリスト 植田美津恵さん
医学博士。愛知医科大学客員教授、東京通信大学准教授。専門は公衆衛生学、医療制度など。各大学で教壇に立つほか、医学番組の監修、講演活動をこなす。
脳神経外科医 松井孝嘉医師
東京脳神経センター(東京都)理事長、松井病院(香川県)理事長。画像診断を世界で最も早く始め、CTスキャナーの日本への紹介・導入・普及に尽力。脳卒中死の激減に貢献。
歯科医 栃内秀啓歯科医師
栃内歯科医院(岩手県盛岡市)副院長。父で院長の明啓さんと二人三脚で治療にあたる。祖父の代から三代にわたり、地域に根ざした医療の提供を実践する