その人らしく生きることをあきらめない

 出田さんは、高齢者施設に動物と入居できることが当たり前になれば、殺処分も減らせるかもしれない、と考えている。ペットが飼い主より長生きして自治体に保護されるケースでは、他人に長く飼われた高齢の犬や猫ほど引き取り手が少なくなり、殺処分されてしまうからだ。

「最期まで一緒にいられることが当たり前になれば、高齢になってからも、安心してペットを飼えますよね」

 そう言って、出田さんは期待を込める。

「これからは、ひとり暮らしの高齢者が今以上に増えていく。ペットと暮らせる老人ホームのニーズは、必ず高まっていきます」

 と、若山さんは断言する。そしてペットと暮らすことを含め、何かをあきらめていた高齢者の夢が叶って喜ぶ姿に、「やってよかった」と感じられることが、大きな原動力だと話す。

’19年には、文福を主人公にした著書を出版。大学での講義や講演に呼ばれる機会も多い
’19年には、文福を主人公にした著書を出版。大学での講義や講演に呼ばれる機会も多い
【写真】『さくらの里 山科』の施設内、入居者がワンちゃんたちと触れ合う様子

「同じ業界の方々からの見学には、これまでもできる限り応え、施設をオープンに見てもらってきました。有料老人ホームでは、ペットと暮らせるところが増えていますが、特別養護老人ホームでペット入居可の施設は、なかなか実現に至らなかったんです。でも先日、九州の特養から“実現しそうです”という知らせがあって、そのことを本当にうれしく思っているんです」

 ひとりひとりの生活の質を高め、最期まで、その人らしく生きることをあきらめない。その思いで、若山さんは取り組みを続けている。

取材・文/吉田千亜(よしだ・ちあ)
フリーライター。1977年生まれ。福島第一原発事故で引き起こされたさまざまな問題や、その被害者を精力的に取材している。『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』(岩波書店)で講談社ノンフィクション賞を受賞。

(撮影/伊藤和幸)