日本感染症学会は、今シーズンのインフルエンザについて、「大きな流行を起こす可能性も」と予測。海外もイギリス政府が「今年は例年の1・5倍の流行になる可能性がある」として注意を呼びかけ、またWHOによると、バングラデシュやインドなどで今夏に流行が確認されたという。

海外と日本では病気に対する考え方や衛生環境、生活習慣が変わります。一部の途上国で流行り始めているからといって、日本で同じことにはならないと思います

 そう話すのは、新潟大学名誉教授で医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦先生。

「コロナと違ってインフルエンザは空気感染します。そのためマスクや消毒などの個々人の予防策が感染者数に大きく影響します。前季は、コロナの感染対策を行っていたことで、例年と比較して格段に少なくなった。今季も同程度ではないかと私は思います。インフルエンザは、一昨年は流行しましたが、そのときは10月時点ですでに感染者が多かった。現時点で今年も感染者数は少ないですから、流行するということはないと思います」(岡田先生、以下同。詳しい感染者数は記事中央の『感染者数』参照)

 ただ、懸念されるのが……。

「現在非常事態宣言が解除され、コロナ感染者数もゼロに向かっていて、気が緩んでいます。みんなが気を許し、マスクをはずしたり、飲み会をしたりすると、コロナも流行るし、インフルエンザも流行るということは起こる可能性がある。前提として、今の対策をみんなが守ることをすれば、海外でいわれているような流行は起こらないと思います」

そもそもワクチンの目的とは

 そもそもインフルエンザワクチンは、最近の研究で、あまり“効かない”ということが明らかになっているという。

インフルエンザワクチンに関する膨大な過去の研究を集め、メタ解析した論文が'20年に出ました。結論は“有効率59%”、“重症化を防ぐ効果はない”というものです」

 メタ解析とは、過去に独立して行われた複数の研究のデータを収集・統合し、統計的方法を用いた解析。

「『コクラン』というイギリスの民間団体による論文集があります。この団体は薬品などのメーカーからは完全に離れており、忖度が一切なく、世界中の論文を集めてメタ解析のみ載せる。極めて信頼性が高いとされており、コクランが出した結論であり、総決算といっていい。ワクチンというのは、集団免疫を獲得することが大きな目的。有効率50%を切るようなワクチンは、その面であまり意味がないと国際的にいわれてきました。インフルエンザワクチンはそれに近いということです」

 集団免疫とは、人口の一定割合以上の人が免疫を持つと、感染患者が出ても、ほかの人に感染しにくくなること。感染症が流行しなくなる状態だ。

 現時点で日本の必要回数のコロナワクチン接種が完了した割合は68・4%と、“コロナワクチンをすでに打っている人”は多い。インフルエンザワクチンとの関連性とは。興味深い研究がある。

「論文は2つ。1つは“インフルエンザワクチンを打っていなかった人は、打っていた人よりコロナで重症化した割合が2・44倍高かった”というもの。もう1つは、インフルエンザワクチンを打った人、打たなかった人でコロナに感染した場合の症状の出具合を比較しています。“インフルエンザワクチンを打たなかった人は、打った人と比較して、重い症状が出る割合が1・1倍だった”としています。重症化の例を挙げると、血栓ができた、ICUに入らなくてはならないほどの症状が出たなどです。1つ目の論文ほど高い数値にはなっていませんが、同じような結論となっています」

 この結果を見て、今後のことを考えると、インフルエンザワクチンを打っておいたほうがいいと思えるが……。