実は厳しい歯医者の懐事情
歯科治療の実態がここまで悪化してしまったのは、医者自身のモラル低下だけではなく、歯科業界の背に腹は代えられない厳しい実情もある。
かつて歯医者は花形の職業だった。戦後、多かった虫歯患者が歯医者黄金時代を支え、歯医者はもうかる職業として長く君臨してきた。ところが、いまは廃業する歯医者が現れるほど懐事情が苦しいのだという。
「歯医者は増えに増え、今やコンビニより多くなってしまいました。片や患者はというと、少子化や口腔衛生環境が整ってきたこともあって減るいっぽう。多くの歯医者で少ない患者を奪い合っているのが現状です」
そのうえ、コロナ禍が厳しさに拍車をかけた。口腔内を診療する歯科では、感染のリスクは低いとはいえない。患者がわざわざいま行かなくても……という気持ちになるのも当然だ。
「患者さんにとって本当に必要な治療なら、キャンセルも出にくいでしょうが、診療報酬を上げるためにたいして必要でもない治療で通院させているところは大打撃です。歯のアフターケアやメンテナンス程度なら、いまはパスしようとなりますからね」
歯科医のこうした窮状は、もとをたどれば、歯科医業界に厳しい国の医療政策から生じている。
「国は医療費を削減しようと必死ですが、そのしわ寄せがきていて、歯科医療費は全体の医療費のわずか10%以下。そのうえ、日本の保険制度では、歯科医療はほかの医療に比べて低い保険点数に据え置かれている。さらに言えば歯医者はきちんとした治療をすればするほどもうからない、という矛盾に苦しんでいるんです」
歯を残す治療は手間がかかるわりに保険点数は低く、抜歯はそれより点数が上。安易に抜歯に流れるのも、こうしたからくりがあるからだ。
「保険診療だけでは経営を続けていけないところまできていますから、生き残るためには自費診療に力を入れるわけです。高級素材の入れ歯や審美歯科、1本数十万円するインプラント治療を患者にすすめ、経営を成り立たせているところも多いのです」
そういった歯医者がすべて悪徳というわけではないが、歯医者も商売である以上、家賃やスタッフの給料を払うためには売り上げを上げねばならず、患者本位の医療ができていない例が多数あるのもまた現実だ。