「薬が薬を呼び、患者は薬の雪だるま状態になっている」と語るのは伊東エミナ医師。医者は薬を出し続け、その薬を疑わない患者ーーそんな日本の医療現場に疑問を投げかけている。だが、毎日飲み続けることで実は高まっている「クスリのリスク」。医療を受けるひとりひとりが知っておくべき医療の“からくり”を紹介する。
年を重ねるごとに病院に足を運ぶ機会は増えていくもの。比例して多くなっていくのが薬の量だ。医療機関で処方される薬と年齢の関係を示した厚生労働省のデータがある。1か月に調剤薬局を通じて受け取る薬の種類が40代以降は増える傾向にあり、65歳以上の約15%が5~6種類、75歳以上の約25%が7種類以上の薬を服用している。
このような薬との“深い”付き合いに警鐘を鳴らすのが、エミーナジョイクリニック銀座の院長、伊東エミナ先生。
「薬の処方はあくまで対症療法です。すなわち症状を緩和するための治療法で、病気を根本から治すものではありません。薬の服用が副作用を伴うのはみなさんご存じだと思います。
副作用によって症状が悪化したら、そこで新たな薬が出される。高血圧などの慢性疾患やうつ病などの場合は、病気の症状と副作用の区別がつかず、新たな薬の処方につながることも。
薬が次の薬を呼ぶ負のスパイラルにより、雪だるま式に増えていくのです」
薬をくれる医者は良い医者という誤認識
薬では病気は治らない。副作用も怖いし、薬を増やす弊害もある。にもかかわらず、薬が大量に処方され続けているのはなぜなのか。伊東先生は、国民皆保険制度のマイナス面を要因として挙げる。
「公的な医療保険の加入により、国民の誰もが保険医療を受けられる国民皆保険は優れた制度です。その恩恵はお医者さん側も受けています。診察し、薬を出すことで安定収入を得られるのは同制度のおかげだからです。
患者さんからすれば、『医者は薬を出すもの』と認識し、『保険の適用で安くすむ』と安心しますよね。こうしてできあがるのは、薬を媒介にしてお医者さんと患者さんの間で信頼関係が成り立つ構図です。薬を出すお医者さんがよいお医者さんとは限らないのに、そう錯覚する人も出てくるでしょう」(伊東先生、以下同)
薬を出してもらわないと安心しない。薬を出さない医者はおかしい─。そんな意識が芽生えていないだろうか。
「風邪やインフルエンザの患者さんに、抗生物質を処方するお医者さんがいまだにたくさんいます。抗生物質はウイルスによる風邪やインフルエンザの感染には効果がありません。むしろ不要なときに抗生物質を飲むと腸の中の善玉菌まで殺し、悪玉菌を優位にして免疫力を下げることになります」
薬を増やす悪因は医者への過度な信頼感
かといって、患者のほうから薬を拒否するのは容易ではない。医者と患者は上下の関係になりがちだからで、言われるがまま薬を飲んでいる人は多いだろう。だが、権威ある立場の医者に対する信頼感がゆらぐ話もある。
「健康診断の基準値の変遷は、医療業界と製薬会社とのつながりを疑わざるえない問題です。例えば高血圧の基準値でいえば、1987年は上の血圧が180以上でした。その後、数値は年々下がり、現在は140以上に。
高血圧の基準値が下がれば、降圧剤などの薬を処方する機会は必然的に増えます。それはお医者さんにとっても製薬会社にとってもプラスですよね」
薬がすべて悪ではなく、症状の緩和に不可欠な良薬もあるという。注意すべきはメリットよりデメリットが目立つ薬。高齢化社会に入り、医療費や保険料負担が増え続ける中、心身に悪影響を及ぼす薬にお金を払うのはムダでしかなく、ましてや飲むのは避けたいはずだ。