「薬を最小限にとどめ、病気を根本から治す医療を志したのは、ストレスを主な原因とする私自身の病気体験がきっかけでした」
と語る伊東先生。日本では数少ない根本治療専門クリニックを開業し、心身回復のための治療やケアに従事。不調には背骨のゆがみや体内の炎症などが複合的に関わるとし、表面的な症状だけに薬を出す対症療法に異を唱える。
病院や薬に頼らない母の考えのもとに育つ
伊東先生は幼少期、風邪をひくと高熱が出て扁桃腺が腫れることが多かった。しかし、病院や薬とは一切無縁だった。
「母の行動や考え方によるものです。風邪のときは私に葛湯やお粥を食べさせ、どんどん汗を出し、下着を取りかえる。すると一晩で熱は下がり、扁桃腺の腫れも引いた。ほかの病気でも同様に薬を飲ませず、自然治癒に導いてくれました。私の医療に対する姿勢の基礎は、こうした母の教えによって培われたように思います」
高校時代、心から慕う母親が子宮筋腫と診断され、入院を余儀なくされる。やがて悪性とわかり、抗がん剤治療へ。
「母の病気から医師になる決意を固めました。母は抗がん剤の副作用に苦しみながらも打ち勝ち、回復。それでも、もう少し早く筋腫を発見できていたら……という思いはいまも拭えません」
医学部に進学。国家試験に合格し、研修医を経て内科医として医師のスタートを切った。診療と研究の経験を積み重ね、6年目のこと。アメリカの大学に留学するチャンスを得る。だが、留学中に思わぬ病に襲われるのだ。
「アメリカではホルモンと老化に関する専門的研究に没頭する忙しい毎日でした。言葉や文化、食事などが異なる異国の地というのもあり、ストレス過多の状態だったのでしょう。胃や精神に不調をきたすようになったのです。
病院で出された薬を飲んでも効かず、さらに薬疹が出始め、吐き気もひどかった。症状は悪化する一方でしたね」
薬で苦しんだ体験を治療に生かすと決意
一時帰国を決断し、自らの病に思いをめぐらす療養の日々を過ごす。
「なぜ自分は病気になったのか、薬が効かないのはなぜか、薬は怖いものではないか……と。もともと薬による対症療法主体の医療に感じていた疑問が、自身の経験で確信に変わりました。そして病気の根本的な原因を改善し、自然治癒力を高める治療の大切さに改めて気づき、ライフワークとすることに目覚めました」
しかし壁が立ちはだかる。留学を終えて帰国したのち、根本治療の研究の場は与えてもらえなかった。組織の中では、新しい分野を追究するより、上からの指示に従う人材が必要とされたのだ。あえなく辞職した伊東先生は、志を貫くべく開業し、現在に至る。
「当院で行う根本治療は日本の医療制度の関係上、保険外治療が中心。最良の医療を届けたいと思いながら、経済的な壁ができていることに、歯がゆさを感じます。アメリカでは根本医療に通じる機能性医学というジャンルの研究が進んでいる。日本でも同様に重視され、抜本的な医療改革のもと、根本治療が保険適用となることを夢見ています」
薬は怖いもの…と気づいた伊東エミナ先生の歩み
【幼少期】母親の方針から、病院や薬とは縁のない家庭で育つ。高熱には葛湯、下痢には梅酢を与えられ、自然治癒へと導かれた
【医学生時代】母親の病気を機に医師を目指す。抗がん剤の副作用と不安に苦しむ姿に、医師として患者に寄り添うことを決意
【医師になる】6年目、米国ヴァージニア大学に留学中、心身に不調をきたす。処方された薬が効かず、身体は拒否反応を示す。帰国し湯治場での療養で心身が回復。この体験をきっかけに、病気の本質的原因に関する根本治療の研究を開始
【現在】独自に根本治療の研究を重ね、2010年、東京・銀座にクリニックを開業。以来、国内・米国研究所と連携し、最新医学をベースに心と身体の機能回復を専門にサポートしている。予防医療、自然医療の啓発をライフワークに