がん専門医で、昨年からこの治療法を取り入れ、田中さんや原田さんの主治医も務める、ソラリアクリニック東京の古賀祥嗣院長にNKT細胞について説明してもらった。
「がん細胞を攻撃するのに重要な免疫細胞には主に、生まれながらに攻撃性を備えているNK細胞と、外敵を記憶して後天的に攻撃性を得るT細胞があります。NKT細胞は、NK細胞とT細胞両方を同時に活性化できる細胞で、自らがん細胞に攻撃を行うだけでなく、リーダーとしてほかの免疫細胞たちに指示も出して活性化させる、プレーイングマネージャーのような存在。数が少ないため大した働きをしないと思われて、これまでは注目されてきませんでしたが、近年の研究によってがん細胞に対して非常に有効な働きをする免疫細胞だとわかったのです。いまのところ、この治療法は、免疫細胞を利用するがん免疫療法の“決定版”といっても過言ではないでしょう」
このNKT細胞を活性化させる成分を自分の血液中の免疫細胞から作って身体に戻すことで、今までにない強い力でがん細胞を攻撃するという。
費用は平均で約326万円と高額だが…
現在は厚生労働省が認定した委員会の審査を経て認められた17の医療機関(※)で治療が行われていて、費用は病院や病状によっても異なる。平均すると約326万円(税別)と高額だが、標準的な治療だけでは改善が難しい場合など、選択する患者さんが増えているという。先ほどの田中さんと原田さんに金額について率直に聞いた。
「決して安い金額ではありませんが、副作用がほとんどなく、長期間効果が持続すると聞いて迷うことはありませんでした。がん保険がおりたことも後押しになりましたね。結果的に命拾いすることができ、一切悔いはありません」(田中さん)
「費用は高額ですが命には代えられないと思い、決断しました。全員に効果があるかはわかりませんが、多くの人にこの治療を知ってもらいたいと願っています」(原田さん)
高い金額を払って受けるなら少しでも効いてほしい。どういう患者さんにおすすめなのか、古賀院長に聞いた。
「このNKT細胞標的治療はあくまで第4の治療であり、抗がん剤などと併用して行うことが基本です。末期で手の施しようがなくなってからでは効果は期待できません。おふたりのように併用して治療を行うことで、効果が高まるのです。これまで当院では7人の患者さんにこの治療を行い、全員にがん細胞縮小などの効果が見られました。ただ、7人とも抗がん剤と併用して行ったため、この免疫療法の効果かどうかは明確にはわかりません。しかし、副作用がほとんどなく、抗がん剤で下がりやすい免疫力や体力のバックアップにもつながるため、メリットはあると考えています」
第4の治療が思わぬ命拾いにつながることもある。2人に1人はがんになる時代。まだがんになっていない人も、知っておくといざというときにきっと役立つはずだ。
がん専門医・古賀祥嗣先生
医学博士。日本再生医療認定医など。'89年、産業医科大学卒業。泌尿器科悪性腫瘍、透析、腎移植専門。江戸川病院副院長を務めながら、NKT細胞標的治療を行うため、'21年ソラリアクリニック東京院長に就任。がん患者さんをサポートするため、休日返上で免疫治療を行う。