“看板攻勢”に出た理由
看板を数多く建てる前、きぬた歯科では新聞・雑誌・ネット・チラシ・タウン誌などさまざまな媒体で広告を打っていた。それぞれ10年分のデータを見てみると集客効果はネットと看板が上位で拮抗。しかしその“費用”は、看板はネットの16分の1だった。ここできぬた泰和院長は“看板攻勢”に出た。
「今、広告はネットばっかりじゃないですか。そんなの誰が決めたのって。広告って“隙間を埋める”って行為がすごく重要なんですよ。なんとなく目に入ったものが気になるとか。看板に限らず新聞の広告などもそうです。僕、こないだ新聞広告で見た枕買っちゃいましたもん。浅田真央の(笑)。でもこれなんです。ネットだったら絶対に出会うことはなかった。僕は枕を探していたわけじゃないですから。この感覚をみんな忘れている」
ネット広告だ、SEO(検索上位に出るための施策)だと叫ばれて久しいが、そんなものは「思考停止」と院長は言う。
「マーケティングっていうのはすごく単純で、そんなにお金をかけずに予算の中でいろいろな媒体で4つか5つくらいちょこちょこってやってみるんですよ。それで半年とか1年経過を見て、効果があるものに一気に投入していく。小さい会社でも大きい会社でも同じです。一度予算を振り分けてみて、効果を比較してみて、結果が出たもの、費用対効果の良いものに注力する。業種によって戦略は当然変わり、“どの”広告が合うかも変わります」
看板に注力した結果、きぬた歯科は八王子市にあるが、看板は北は栃木県足利市、南は大磯・小田原辺りにまで至った。院長の顔がどデカく写るもの、歯科なのに院長がなぜかファイティングポーズを取り、「俺を信じろ!!」というセリフが入ったものなど、ある種“ふざけた”ものも多く、カルト的な人気を集めてファンも生まれた。そのファンが作った『きぬた歯科看板神経衰弱』や、『きぬた歯科看板大全』なるマップ本まである。
「副産物というか自分が想像していなかった流れになっちゃった。僕は(看板広告を)真剣にやってきた。命がけで。でもみんなが面白がって、イジり出した。自分は仕事一筋でやってきて、遊びっていうのを知らないんですよね。そしたら僕も面白くなってきたんですよね」