白米が蛆に見える「痩せ姫」たち

 ただ、ひとつの目安はあります。許可食以外への拒否感が強まり、許可食そのものがほとんどなくなってしまうという変化です。

 その変化を象徴的に描いたのが、今年5月に発表された渡辺優の小説『Mさん』。痩せさせてくれるという幽霊を信じた女子中学生が主人公です。彼女は幽霊のおかげで、太りやすい食べ物には虫がわいているように見えるようになり、ダイエットに成功。ところが、しだいにほとんどの食べ物に虫が見え始めて─という物語です。

 この小説はホラーですが、現実でも同じようなことが起きます。ある人は「拒食のころ、白米が蛆に見えた」と言いますし、またある人は、食べ物をゴキブリや毒にたとえました。

「汚いし怖いもの。私の場合はゴキブリというか毒だった。これを食べたら死ぬ、って本気で思ってた」

 とはいえ本来、痩せ姫が志向するダイエットは世間で健康的とされるそれと地続きです。最初に述べたように、健康と病気の境界は曖昧。ほどほどにうまくやるのは難しい、という意味で、痩せることは生きることにも似ています。

大食い女子も一時的拒食もありえない

 テレビのバラエティーなどでは「大食い女子」がちょくちょく取り上げられます。そのなかには、大食いぶりを動画で公開して人気を得ている人も。そんな人たちの多くは、標準もしくはそれよりも細い体形です。

 そのギャップもまた、注目につながるわけですが、痩せ姫たちからはこんな声も上がっています。

「痩せの大食いって実在しないよね」

 また、大食い女子が太らない理由について、トイレの回数が多いといった消化機能の特異体質として説明されることもあります。これについては、

「もしかして、お仲間?」

 という声が。トイレで吐いているのでは、というわけです。

 もちろん、特異体質の人だっていないわけではないはずですが、彼女たちにはなかなかそうは思えません。それは人一倍、食べれば太る、食べなければ(あるいは、吐けば)痩せるという現実を経験しているからでしょう。

 なお、大食い女子のなかには、オンオフを切り替えるように、少食の期間も設けてバランスをとる人もいるようです。ただ、拒食から過食を経て拒食に戻った人がこんなことを言いました。

「過食からかなり離れたように思うけど、見えないだけですぐそばにあるものだから、怖いです」

 また、こう嘆く人も。

「冷蔵庫に飲み物1本しまいに行っただけのはずが……アイス1本食べて帰ってきてしまった」

 この感覚がわかる人なら、過食と拒食、大食いと少食の切り替えの難しさも想像できるはずです。