デイサービスの仕事に出会い、前向きに活動開始
退職後、生活のために働こうと雇用保険の失業手当を受けながら仕事探しを開始。しかし、ハローワークは認知症当事者向けの仕事の斡旋経験がなく、再就職は進まない。
いわゆる「障害者手帳」は取得できたものの、認知症当事者に必要な公的サービスや経済的な支援はないことも次第にわかってきた。
先の見えない壁を前にふさぎ込む日々に光が差し込んだのは、10月の「認知症初期集中支援チーム」の訪問がきっかけだった。
認知症初期集中支援チームとは、認知症が疑われる人や認知症の人とその家族を訪問し、環境を整えて自立生活のサポートを6か月ほど行うチームのこと。市町村や大きい病院に配置されている。
「3人で家にいらしたのですが、そのうちの1人がリハビリセンターの方で『デイサービスでアルバイトをしないか』と誘ってくれたんです」
気力を失っていた下坂さんだったが、心のどこかで「このままではいけない」「何かを始めなければ」の思いがあった。そのひと言が下坂さんの背中を押してくれた。
「ほかにビル掃除の仕事も紹介してくれましたが、デイサービスはやりがいがありそうで。人と関わる仕事についたことが、その後の人生を変えたと思います。専門家のサポートやケアはとてもありがたいし、必要だと実感しました」
認知症と診断されてから3か月後、下坂さんは京都市西京区にあるデイサービスセンターで週3回働き始める。そこでは認知症の人に居場所と活動場所を提供するという取り組みをしていたため、「自分も何か役に立てるかも」と思えるようになる。
仕事は高齢の利用者の入浴、トイレ、食事の介助や身の回りのお世話、フロア業務など。目の前の仕事を無我夢中でこなすうちに、少しずつ前向きになっていく。
「ときどき目の前の人の名前が出てこなかったり、仕事の手順を間違えたりすることも。そんなときは周りの職員がカバーしてくれたり、スマホのメモやアラーム機能を使ったりして対処します」
今では正職員として欠かせない役割を担う。しかし、手取りは以前の3分の1になったため、住宅ローンを払い続けるのは難しく、2年前に賃貸マンションに転居した。
「子どもたちが自立し、お金がかかる時期でなくて幸いでした。ただ、認知症でも症状が進んでいないうちは、ある程度働けるので、働くことは諦めないでほしいですね」
加えて今の下坂さんには大きな使命がある。若年性認知症の当事者として、積極的に啓発活動に励み、サポート活動にも参加しているのだ。
「認知症当事者の会報誌にインタビューが紹介されたことがきっかけでした。自分が出ることで認知症に対する社会の偏見が変わってくれたらと思えたのです」