熱が出たら温かくして発汗は×冷やして脱水を予防する
風邪で熱が出たら、身体を温めて汗をかいて治す。いわゆる発汗療法は、現代の医学常識では間違いだとされている。
「熱が上がりきったら、汗をかかせるために、無理に温かくする必要はありません。むしろ、太い血管の集まる脇の下や、首の周囲に冷たいタオルなどを置いて、身体の温度を物理的に下げるようにしたほうが、脱水状態の予防のためにもよいのです」
『家庭の医学』(時事通信社)での「風邪の対処法」の記載も、時代とともに変化が認められる。
「1949年版には、《体を温かくして就寝すると、発汗して気持ちよくなり、翌日からは熱が高く出ず》とあり、1969年版、1988年版のいずれにも、《かぜのひきはじめには昔から発汗療法(出典ママ、以下同)》と書かれてあります。
しかし2001年版では、《汗をかくと気化熱により体温が奪われるので熱が下がりやすくなります》と修正され、2005年版では、《かぜに対する特効薬はなく、一定の経過をとって自然に治癒していくもの。汗が出て脱水状態になることがありますので、水分を十分にとることも大切です》と記載されています」
ひきはじめは寝るより軽い運動をしたほうがよい
「風邪をひいたらとにかく寝て休むのがいい」と思っている人も多いが、必ずしもそうではないとか。
「倦怠(けんたい)感によって、寝たほうがいいのか動いたほうがいいのか決まるので一概には断定できません。
倦怠感がないのなら、特に寝ている必然性はなく、軽い運動をすることで、代謝も高まります。ただし、飛沫(ひまつ)感染、接触感染によって他人にウイルスをうつさないことは重要です。
一方、風邪予防には寝ることは大切です。睡眠時間が7時間以上では最も風邪をひきにくく、それより短くなればなるほど風邪をひく確率は高くなるという結果が出ています」
「風邪をひいたかも」と感じたら、すぐに寝るのではなく、ウォーキングやストレッチなどの運動をしたほうが治りが早くなるケースもある。
インフルエンザの予防にはうがい薬よりもお茶がいい
手洗いとうがいはウイルスを寄せつけないために推奨されるが、うがい薬は必要なかった!?
「うがい薬でうがいすると、薬の消毒効果が強すぎて、かえって風邪を悪化させる可能性もあります。昭和大学細菌学教授の島村忠勝先生によると、紅茶、緑茶、ウーロン茶などは、インフルエンザや風邪に対する予防効果があるそうです。茶葉に含まれているカテキンは、インフルエンザや風邪のウイルスに結合し、感染力を弱くしてくれます。ふだん飲むお茶の4分の1程度の濃さでも効果があります。
研究報告では、紅茶で1日2回うがいをすることで、インフルエンザの予防に効果がありました。人前では、なかなかうがいができないかもしれませんが、そのときはお茶を勢いよく飲むというのもおすすめです」
民間療法の信ぴょう性はイマイチ
民間療法として知られる「風邪のとき、焼いたネギを首に巻くと効果がある」はホント?
「答えはウソです。ネギ、特に長ネギは、辛み成分のアリシンの作用で血行を促進し、身体を温め疲労回復に効果があるといわれています。アリシンは、ビタミンB1の吸収を高めて、疲れを癒す働きも。ネギの白い部分は漢方でも風邪に効果があることで知られ、緑の部分はβカロテンやビタミンCが豊富です。
しかし、焼いたネギを首に巻いたからといって、ネギの成分が皮膚を通して、血液の中に吸収されるとは考えられません」
「風邪をひいたら卵酒が効く」も間違い!
「お酒は、粘膜を乾燥させたり、炎症を拡大させたり、風邪に対して、あまりよいことはありません。寝つきをよくする程度のアルコール量なら問題ないと思いますが、量が多い摂取は好ましくなく、むしろ風邪による炎症を悪化させてしまいます」
風邪をひきやすくなるこれからの季節、正しい情報をもとに対処しよう。
コメントしてくれたのは……医師・医療ジャーナリスト 森田 豊さん ●1963年、東京都出身。医師として医療に従事するとともに、メディアにてジャーナリストとして活動を行っている。近著に『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』(自由国民社)がある。
〈構成/紀和 静〉