かえって不健康に?高齢者の検診リスク

がんにかかりやすい年代に絞って検診を行えば、その利益は大きく、不利益を上回ります。これまでの研究の結果、がんの死亡率低下という利益が大きいとされているのが、現在、自治体や職域で行われているがん検診です」

 例えば、中高年で増える乳がんや大腸がんの検診は40歳から、若い女性にも多い子宮頸がん検診は20歳から受けるよう推奨されている。

 一方、現在日本では、がん検診の対象年齢には上限がない。多くの高齢者が検診を受け続けているが、このことが、受けすぎる害を増やしているおそれがあるという。

 例えば、胃のX線検査で飲むバリウムを、高齢者はうまく排泄できず、便秘や腸閉塞を起こす例が増えている。何より、機械につかまって身体を上下左右に動かされるのは、転落の危険が大きい。

「検査中は撮影室には誰もいないので、検査台から滑り落ちそうになっても助けることができず、最悪の場合、骨折するかもしれません」

 また、大腸がん検診では便を提出するだけだが、いざ要精検となれば、大腸内視鏡検査を受けることになる。検査前には、腸内をきれいにするために2Lもの下剤を飲み、絶食する必要が。高齢者はそのために脱水を起こしやすく、点滴を受けて帰るようなケースも増えている。

「脱水は脳卒中の引き金にもなります。さらに腸の組織も老化しているため、内視鏡で腸に穴があく事故も起こりやすくなってしまう」

 もうひとつの問題は、高齢でがんが見つかったとしても、治療ができるかどうかだ。手術は身体的な負担が伴うため、高齢者は逆に寿命を縮めるおそれもある。全身麻酔は心臓や肺に大きな負担がかかり、数日の安静でも運動量が落ちて、とたんに筋力が衰える。こうして、かえって老化が早まり、寝たきりに陥るきっかけになりかねない。

「高齢だからと治療をしないのなら、リスクを冒してまで検査をすることが得策なのかということになります。がん検診が推奨されるのは、あくまでも不利益より利益が上回っている場合。超高齢社会を迎え、検診を受けすぎる高齢者が増えてしまうおそれがあります」