村井さんが実際に行った看取る介護
実は村井さんは、訪問介護の仕事をしている。
「ヘルパーをしながら全員のシフトを組んだりまとめ役をするサービス担当責任者で、介護職歴は25年です。姉は専業主婦ですが、以前ヘルパーの仕事をしていた経験があります。
そして92歳の母親は、義母の介護経験があり、大人のオムツ交換などに慣れていました。日頃から庭で野菜作りをしており、年齢を感じさせないバイタリティーと家事力・介護力があります」
介護はプロと経験者で固め、4人は分担を決めて最期を家で迎える準備を始めた。
母親は食事作りなどの家事中心。村井さんは早朝のオムツ替えと仕事を終えてからの夕方以降のオムツ替え、買い物、父母の通院の一部も担った。姉は日中に時間があるので、昼間の介護を中心に、母の通院に付き添った。
訪問してくれるデイサービスの管理者は、デイサービス終了後、19時30分ごろからオムツ替えや力のいる作業をしに来てくれて、父親とデイサービスにいるときのような会話をし、気持ちをほぐしてくれた。
やがて9月を迎えるとだんだん元気がなくなり、9月25日には水分がとれなくなってきた。水分がとれなくなると「あと1週間」とよくいわれる。村井さんたち家族は覚悟を決めた。そして9月30日の朝──。
「父の様子がいつもと違いました。肩を大きく動かして全身で息をしているような。それで訪問看護師さんに来てもらうと、『もう少しです……』という言葉。
私はちょっと受け入れられなくて、心の中で『嘘よ、何言ってるのよ、まだ早いわよ』と思っていましたが……、というかそう思いたかったのですが、やがて静かになって息を引き取りました」
父親が膵臓がんと知ってから半年のことだった。