人間ドックでがん予防

 自治体などで行われる住民検診だけでなく、個人が全額自己負担で受ける人間ドックでがんを予防したいと思っている人もいると思います。

 自分の健康リスクを回避するために人間ドックを受けることは、とてもよいことだと思いますが、その場合は費用対効果のよい、質の高いドックを選んでください。

 というのも、国内の人間ドック専門業界は魑魅魍魎と化しているからです。テキトーに値付けされた高い金額を払ったとしても、診断・診療のレベルが低いところが少なくありません。

人間ドックでがん予防(イラスト/小島サエキチ)
人間ドックでがん予防(イラスト/小島サエキチ)
【写真】大腸がん検査は2種類、それぞれのメリット・デメリット

 大きな理由として、金儲けしか考えない経営者が運営している施設が数多あり、そこで雇われている医師や看護師らの質に大きな問題があることが多いからです。

 こうしたドック専門店は、まっとうな現場で機能しない医師や看護師らにとって格好の就職先と化しています。

 高額な会員制ドックの中には、ホスピタリティーや空間にお金をかけて本来力を入れるべき医療の質をごまかしている医療法人もみられます。

がんの心配なし」というお墨付きが欲しくて人間ドックを受ける人は、金儲け最優先の経営者にとっていいカモになってしまうのです。

 院長や担当の医師がコロコロ変わる施設などは要注意、人間ドックを受ける際は慎重に医療機関を選びましょう。

線虫でがんの早期発見が可能

 がんのにおいを高い精度で嗅ぎ分ける「線虫検査」が画期的だとして、テレビでも大々的に宣伝されていますが、個人的には、未熟な眉唾的検査だと思っています。

「〇〇大学と共同研究」「感度86.3%」を強調しているので、性能が高く認められた検査だと錯覚してしまいそうですが、薬事承認も得ておらず、本当に検査として成り立っているのかも不明です。

 実際、これまで当クリニックにも10人近くの人が線虫検査でリスク陽性の判定が出てしまい不安にかられ、全身検査を希望して来院されました。ところが、精密検査の結果、誰一人としてがんは発見されませんでした。

 経験上、ニセの陽性率が100%で、がんではない人を「がんではないと正しく判断できる割合(特異度)」は0%です。線虫検査企業の宣伝では、がんと判定できる感度のことばかりが強調されていて、特異度の数字を明確に出していないようです。

 さらにいえば、線虫検査でリスク陽性と判定された人がその後の精密検査に費やす時間やお金、何より精神的ストレスといった不利益や負担も決して無視できません。

 未承認の線虫検査でリスク陽性と判定された場合に、保険診療で精密検査を行うことにも現状では反対です。医療費の無駄な損失につながる可能性が否定できないからです。

 簡便ながん検診というアイデアは高く評価しますが、がんの検査と称する以上は誰もが納得できる科学的検証データをしっかり示すべきでしょう。