医師に後遺症の不安を伝えなかったことを後悔
告知も治療中も、常に冷静だった金魚さんだが、唯一悩んだのが、母親に病気を打ち明けることだった。
「当時、母は腰の手術をして介護を受けながらひとり暮らしをしていて、週に1、2回は私も実家に行って料理の作り置きなどをしていました。私は一人っ子で、誰かに母の世話を任せることができません。そんな中、自分の大腸がんを母にどう伝えるか、悩みました」
心配をかけたくない気持ちと、これからの治療に向けた準備で頭は混乱した。
「当然あれこれ聞いてくるだろうと。こっちは治療に向けてやることが山ほどあるのに説明するのが面倒で(笑)。結局、病名だけ伝え、進行具合など細かいことは話さずに、なんとか乗り切りました。現在もつきっきりの介護は難しいため、ヘルパーさんなどの手を借りながら自分の治療、仕事、介護をやりくりしています」
かくして手術から抗がん剤治療と、がんの治療はスムーズに進んだように思えたが、その後、長年続くしびれ(慢性の神経障害)と戦うことに。
「痛くて歩けない、物が持てない。知覚もないので字も書けない。とにかく痛みを抑えないと、仕事はもちろん、日常生活も送れない状態でした。実は治療中も、しびれがあまりにひどく、このまま続けても大丈夫なのかと、主治医には訴えていたんです」
しかし、投与中止基準である白血球の減少が見られなかったため、主治医の判断で治療は続行。その際、治療方針や、後遺症の可能性を説明してくれることはなかった。
「当時は、抗がん剤治療をやり遂げれば、がん再発の可能性が低くなる……と必死でした。でも、治療を続けることによって考えられる後遺症について十分ディスカッションをしてくれなかったのは、今でも納得できない思いがあります」
こうした場合、主治医の指示は絶対だと思ってしまうが、不安なことは積極的に伝えるべきだと言う。
「もし主治医に直接話しづらい場合は、看護師や薬剤師など他のスタッフを通じてでも、言いたいことは伝えたほうがいいと思います。ただ、最近は血中のDNAのかけらなどで再発率がわかるようになってきたので、今後は、本当に再発のリスクの高い人だけが抗がん剤治療を受けることになると思います」
その後、しびれの治療として処方された薬は、吐き気やめまいなどの副作用で継続できず。調べつくし最終的に行き着いたのが漢方薬だった。
「エビデンスはないですが、私には合っていたようです」
そして、再発に備えた定期検診は昨年で終了。大腸がんを無事乗り越えた。
「助かるために抗がん剤治療を続けましたが、後遺症のしびれのために看護師という天職を失いました。でも、生活費を稼ぐため、新しい生きがいを見つけるために、今は病気療養中の方も使える美容製品を販売。さまざまな機関と提携し、研究しているウラには自分の壮絶ながん体験も生かされています」
(取材・文/當間優子)