地元・横浜で夢を紡ぎ、発信し続ける

 さてニューヨーク公演から帰ってきた五大さんは、ある宿題に取りかかっていた。ニューヨーク公演を見た15歳の少女から、レセプションでこう話しかけられたからだ。

「ローザは私のヒロインになりました。彼女はどんな困難にも負けずに何度も立ち上がって生きようとしたから」

『横浜ローザ』のモデルは娼婦なので、日本では未成年者にはふさわしくないという評価があった。しかし15歳の少女の胸に「生きる力」が届いていたのだ。

「彼女の言葉を聞いて、『横浜ローザ』を子どもたちに見せるにはどうしたらいいのかを考え始めました」

 実は、その土台はすでにできあがっていた。五大さんの『横浜夢座』という劇団だ。

 脚の不調から回復した後、『ある市井の徒』を公演したことはすでに述べた。その体験が土台になって、1999年に結成されたのが自分の劇団、横浜夢座であった。

 第1回公演『横濱行進曲』('99年)、第2回公演『奇跡の歌姫「渡辺はま子」』(2001年)、第3回公演『横浜萬国劇場 KAIHORO!』('02年)……。以降も横浜に関係するテーマの新作を五大さんが企画し、ほぼ1年ごとに公演してきた。

横浜出身の「奇跡の歌姫」、渡辺はま子の生涯も舞台化。歌声で社会を動かし戦犯の救出に奔走した
横浜出身の「奇跡の歌姫」、渡辺はま子の生涯も舞台化。歌声で社会を動かし戦犯の救出に奔走した

 その横浜夢座が、子ども向け朗読劇『真昼の夕焼け』をスタートさせたのは'16年のこと。『真昼の夕焼け』は横浜大空襲を題材にした作品で、B29による攻撃の中を、見知らぬ少女の手を引いて逃げる15歳の少年の物語だ。

 五大さんは、小学校や中学校の門を叩いて、「聞いてください」と頼んだという。200~300人の小・中学生を相手に朗読劇を行った。

「集中して聞いてくれて、朗読が終わると“空襲の赤い色が見えた”とか、“一生懸命に生きようと思います”といった感想が聞けました。物語が心の中に入っていることがうかがえる感想でした」

 五大さんはもっと大勢の子どもたちに朗読劇を届けたいと、校長会の集まりに足を運び、5分間スピーチをしてお願いしたこともあった。