縁の下の力持ちから“収納ブーム”の主役に

 その後、近藤さんは夫が立ち上げた引っ越しサービス業を手伝うことになる。

まったく未経験の仕事で、ゼロからのスタートです。なのに、社長の妻なので肩書はチーフ。

 一緒に現場で作業する女性スタッフは全員年上で、荷造り、荷ほどきといった作業もスタッフのほうが慣れていて早いんです。そんな中で、自分は何をすべきか考えたんです。スタッフがスムーズに動けるように私は下働きをしよう、と。具体的には、集合時間より早く行って家の場所をチェックする、帰りの電車の切符を用意しておく、重い物は私が率先して運ぶ……。チーフと呼ばれながらも部下のような気持ちで動いていました。

 これって高校時代のバスケ部で当たり前にやっていたことなんです。試合に出場する先輩のためにタオルや水を用意して、さっと出すとかね」

片づけのプロとして、近藤典子の名前は海を越えた。台湾に渡ったとき、現地のマスコミから取材を受ける近藤さん
片づけのプロとして、近藤典子の名前は海を越えた。台湾に渡ったとき、現地のマスコミから取材を受ける近藤さん
【写真】人気者だったという小学校2年生のころの近藤さんが可愛すぎる!

 大切なのは、個人プレーではなく、チームワーク。スポーツを通して学んだことが仕事に活かされ、近藤さんはスタッフから信頼を得ていく。さらにこのころから、既成概念にとらわれない近藤流アイデアが芽を出す。後に大手の引っ越し業者も取り入れた靴下の2枚ばき、段ボール箱で作る引き出しケースが代表例だ。

「引き出しケースはね、紙のキャラメル箱からキャラメルを出したとき閃いたんです。この箱、引き出しになってる! 段ボールで作れるじゃん!って」

 こうした仕事ぶりが、雑誌編集者の目に留まった。

「たまたま編集者のお宅の引っ越しを請け負ったことがきっかけで、雑誌で取材を受けたのです。それが読者に評判がよかったようで、その後もオファーが続き、掃除の仕方、食器棚の片づけ方といったテーマで、私のアイデアを紹介」

 中でも好評を博したのが、散らかったお宅に行って、近藤さんが片づけをするビフォー・アフター企画。雑誌のみならず、テレビ局からも声がかかる。初めは関西で人気に火がついた。ハイヒール・モモコ、タージン、NON STYLEなど、お笑いタレントとの掛け合いトークも視聴者にウケた。やがて全国ネットの情報番組にレギュラー出演する。

「『ベストタイム』という番組で、つまみ枝豆さんとともに、散らかったお宅に伺って片づけに挑むというコーナーを任されて。今、考えると無謀でした(笑)。

 月に4軒、地方局のレギュラーもあり、合わせると月6軒のお宅を片づける。それぞれテーマと、視聴者にオッと思わせるアイデアが必要だし、下見、打ち合わせ、道具の買い出し、準備、撮影……1か月45日ないと間に合わない(笑)」

 まさに不眠不休の忙しさ。そのうえ、「近藤典子の」と名を冠した収納術や暮らしのアイデア術の本が次々に発売された。超多忙な中、連日求められるアイデアを、どうやって生み出したのだろうか?

人間、追い詰められるとなんとかなるもんですわ」と笑ったあと、こう続けた。

私は発明王ではないので、自分の中からポンポンとアイデアは出てきません。アイデアのもとは、“片づかない”と困っている人の中から引き出すんです。だから私は、そのお宅に住む人に、いろんな角度からヒアリングします。この場所で何をしたいですか? 一番困っていることは何?……と質問を重ね、その人が望んでいることや、暮らしに対する思いを引き出す。

 つまり、アイデアの材料は、その家の人が提供してくれて、私はそれをもとに改善策を考えるだけ。10軒10色で、どのお宅もそれぞれ悩みや暮らし方が違う。だから材料は無数にあり、アイデアは尽きないんです」

近藤典子さんと公私共に親交のあるフリーアナウンサーの服部恭子さん
近藤典子さんと公私共に親交のあるフリーアナウンサーの服部恭子さん

 テレビ番組で共演して以来の親友、フリーアナウンサーの服部恭子さんは、「あんなに仕事に真摯に向き合う人を見たことがない」と近藤さんを評する。「どんなに忙しくても“このへんでいいや”と、いいかげんにすませることが一切ないんです

 真摯な姿勢は、周りに伝播していくのだろう。

「『ベストタイム』でレギュラーをやっていたころは、当時のスタッフも寝ないで頑張ってくれました。カメラマンや音声さんまで電動ドライバーを持ってきて作業に参加し、枝豆さんも夜中まで残って撮影後の掃除も手伝ってくれて。やはりチームワークですよ」

 と近藤さん。自身がその中心にいた収納ブームを、今は俯瞰して、こう分析する。

「戦後の物のない時代から高度経済成長期、バブル期ごろまでは、物を持つことがステータスでした。もともと日本には、物を大切にするという美徳があり、捨てる習慣がない。結果、物があふれて片づかない、と、老いも若きも困っちゃったんですね。だから物をしまう収納にスポットが当たったのだと思います。そのあと、片づけやすい収納棚などを自分で作ろうとDIYブームが来て、そもそも物を減らさないと解決しない、とミニマリストブームが起きた。時代時代で変わっていくんですよ」