一度、始めると後には引けなくなる

「補完代替療法の中には高額な商品もあります。5年、10年と続けたときの出費を考えてみて、効果が金額に見合っているかを見極めることもしてほしいです」

「藁をもつかむ思い」で補完代替療法を利用するがん患者や、その家族の心理状態を利用して、効果が望めない商品を売り、なかには莫大な利益を得る人たちがいるのだ。

「治療中は、病院のがん治療でお金がかかる上に、補完代替療法を取り入れると、毎月の治療費はさらに増えてしまいます。無理なく続けられるのであれば、試してみるのもいいかもしれません。しかし、お金の負担を感じたら、“やらない”と勇気を出して決断することも必要です」

 なぜなら、補完代替療法を一度始めてしまうと、後には引けなくなり、やめるにやめられないケースが多いという。

 始める前の段階で慎重に検討すれば、後から家計が苦しくなり、病院の治療費が払えなくなるような事態は防げる。

「病院のがん治療をためらって、健康食品に頼るようなことはやめましょう。また、“西洋医療をやめてこの治療だけにしなさい”という怪しい療法は、避けるべきです。補完代替療法だけを信じてしまうと、適切なタイミングで適切な治療を受ける機会を逃してしまい、がんが治らなくなるリスクがあることはぜひ、知っておいてください」

大野先生セレクト!がん患者向け民間療法 おすすめベスト5

●ウォーキング

【メリット】毎日20分ずつ早歩きを行う。週末の2日間に1時間ずつ行っても同じ効果が望める。生活の質が改善し、免疫機能が活性化。精神的なストレスを和らげる効果も期待できる。乳がんと大腸がんについては、再発を抑制して生存期間が延びたというデータがある。

【デメリット】がんを消失させることはできない。ぜんそくなど呼吸機能に障害がある人、狭心症など心臓機能に障害がある人は、実施してもよいかどうか医師に相談する。

●ヨガ

【メリット】乳がん患者のだるさや倦怠感を軽減し、睡眠障害を改善して、生活の質を向上させたというデータがある。不安感や落ち込んだ気分を和らげる効果もみられる。

【デメリット】がんを消失させることはできない。骨転移の疑いがあるときは、身体の屈曲や捻転などを伴うポーズをとったときに、骨折のリスクがあるので注意する。

●漢方

【メリット】保険適用で医師が処方する医療用漢方薬と、薬局などで購入できる一般用漢方薬がある。抗がん剤治療や放射線治療の副作用である倦怠感を軽減するなど、生活の質の改善に役立つ。

【デメリット】がんを消失させることはできない。漢方は医薬品のため、副作用が出たらすぐに中止する。ほかの薬とのあみ合わせにも気をつける。また、「漢方サプリ」と混同しがちなので注意して。

●鍼灸

【メリット】身体のツボに鍼を刺したり、もぐさを燃焼させてツボを刺激することにより、がんの痛みや息切れなどを軽減し、精神的な苦痛を和らげる。抗がん剤治療の副作用で起こる吐き気や嘔吐も軽減させる。

【デメリット】がんを消失させることはできない。がん患者は出血しやすいため、がん患者への施術に慣れた鍼灸師が注意深く行わなければならない。

●マッサージ

【メリット】身体の表面を手でさする、もむ、圧をかけるなどの方法によって、がんによる痛みや不安の軽減が期待できる。

【デメリット】がんを消失させることはできない。がんの部位や放射線治療をした部位などへの強いマッサージ、出血傾向のある患者への強いマッサージは避ける。

がんの民間療法について知りたいときは下記をチェック
・国立がん研究センター(がん情報サービス)
https://ganjoho.jp/public/index.html
・厚生労働省eJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト)
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html

お話をお聞きしたのは……大野 智先生●島根大学医学部附属病院臨床研究センター教授。医学博士。厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組む。著書『民間療法は本当に「効く」のか』(化学同人)など。

(取材・文/松澤ゆかり)