自然の音を利用して耳鳴りの苦痛を改善

 周囲に音がないのに、キーン、ジーンといった音が聞こえる耳鳴り。日本でおよそ300万人が悩んでいるとされ、原因はさまざまだが、症状が悪化すれば日常生活に支障をきたすこともある。

 日赤名古屋第一病院の柘植勇人先生によると、「耳鳴りの悪化には人間に備わっている“注意力”が関係しています」とのこと。耳鳴りと注意力の関係とは、いったいどういったものなのか。

「耳鳴りに悩む人は、加齢などで聴力が落ちたことで、注意力が過剰に耳鳴りへ向いています。そのため、耳鳴りを気にしないようにしても、ついつい注意が向いてしまい、より耳鳴りを大きく感じてしまうという悪循環に陥ってしまうのです」(柘植先生、以下同)

 耳鳴りに悩む人がつらいのは、寝るときが多い。周囲が静かなせいで、耳鳴りに余計に注意が向きがちだからだ。

「耳鳴りの治療の柱は音響療法で、就寝時に滝や小川のせせらぎ、雨などの自然環境音を流します。目をつむったときに音源がどこにあるかわからないようにします。音に包まれることで、耳鳴りに注意が向きにくくなり、苦痛を軽くする治療法です」

 夜間の苦痛が解決しても、昼間も耳鳴りが気になる場合は補聴器を使うという。補聴器を適切に調整すれば、耳鳴りに注意が向きにくくなる。

「ただし、補聴器は専門的で繊細な調整が必要ですから、希望する人は耳鳴りの診療を専門とする耳鼻咽喉科医に相談してください」

寝るとき音響療法

 就寝時に耳鳴りから注意をはずす!

【やり方】

1.自然の環境音を準備する

 小川のせせらぎ、滝、雨の音など、意識に残りにくい音がおすすめ。波の音のように音量が変化するものは適さない。

2.音に包まれる環境をつくる

 用意した音は、耳から遠い頭の上や足元に置く。スピーカーを壁側に向け、「音に包まれる」空間をつくることがポイント。

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院 耳鼻咽喉科部長柘植勇人先生「耳鳴りを苦痛と思わないようにするための方法です」
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院 耳鼻咽喉科部長柘植勇人先生「耳鳴りを苦痛と思わないようにするための方法です」
日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第一病院 耳鼻咽喉科部長 柘植勇人先生
「耳鳴りを苦痛と思わないようにするための方法です」
構成・文/鶴町かおり イラスト/秋葉あきこ 写真協力/有坂政晴 モデル/大橋規子