世界的な課題の新型コロナの後遺症
熱中症と同様、その後遺症に注目が集まり、社会問題にまで発展しているのが新型コロナウイルス感染症。国立国際医療研究センターの調査では、コロナに罹患した人の約30%が、感染後1年が経過しても記憶障害や集中力の低下など「何らかの症状がある」と回答した。
また、米国のシンクタンクが2022年に行った調査では、200万人から400万人のアメリカ国民がコロナ後遺症によって「仕事ができない」状態に陥っていたことが明らかに。コロナそのものより、後遺症のほうが世界的な課題となっている。
コロナ後遺症外来で1000人以上の患者を診察してきた愛知医科大学メディカルセンターの馬場研二先生は、次のように話す。
「後遺症の症状というのは、全身のあらゆる診療科領域にわたる多彩なもので、しかも1人の患者に複数の症状があることが珍しくありません。当院でのコロナ後遺症外来での症例を分析した結果では、倦怠感を訴える患者さんのおよそ20%は仕事もできず、休職状態を余儀なくされています。介助を必要とし、独居が難しい状態の方も10%ほどいます。コロナ感染時の重症度と後遺症には関連が見られず、今もわからないことだらけです」
WHOではコロナ後遺症を「コロナ罹患後に症状が少なくとも2か月以上持続し、また、ほかの疾患による症状として説明がつかないもの」と定義している。愛知医科大学の分析では、後遺症患者にもっとも多くみられた症状は「倦怠感・疲労感」。そして、「頭痛」「息切れ」「嗅覚・味覚障害」などが続く。男女比は、女性のほうがやや多く54%。年代は20~50代が中心で、中でも40代がもっとも多く全体の26%を占める。
後遺症の原因としてはいまだ仮説の段階だが、自己免疫反応や、腸内細菌の変化などさまざまな可能性が指摘されている。
「後遺症患者の便中に数か月にわたり、ウイルスの断片が発見されたとの研究データもあります。体内にウイルスが長期に存在する可能性を示唆していますが、これもあくまで複数ある原因のひとつでしかありません」(馬場先生、以下同)
コロナ後遺症に対し、現時点でエビデンスのある治療法はない。馬場先生が診療にあたる後遺症外来では、患者のQOL(生活の質)の向上を第一に、それぞれの症状に適した対症療法を行っている。
「頭痛などの痛みに対しては解熱鎮痛剤を処方し、ときには抗うつ剤に近いものを使うことも。倦怠感には、漢方薬をよく処方します。頭がぼーっとする『ブレインフォグ』も後遺症でよく見られる症状ですが、あまりにもひどいケースではステロイド治療を試みることもあります」
過去には、診察中の会話すら話したそばからすべて忘れていくほど『ブレインフォグ』の程度が重い40代の男性患者もいたという。ステロイドの処方など1年5か月に及ぶ治療を経たのち、無事に日常生活に復帰。今は完治といえる状態だという。